ある晴れた午後、ヴェルナはエリオットと領地内の新しい薬草畑を視察していた。畑には薬草が整然と植えられ、住民たちが忙しそうに手入れをしている様子が見られた。成長する領地の姿に満足感を覚えながらも、ヴェルナはふとエリオットに対するある疑問を抱いていた。
「エリオット、あなたは本当に商才に優れているわね。」
ヴェルナは彼に微笑みながら言った。「でも、どうしてそんなに詳しいの? あなたが持っている知識や経験は、ただの商人としては異例に思えるわ。」
エリオットは一瞬だけ表情を曇らせたが、すぐにいつもの穏やかな微笑みを浮かべた。
「それは、私がこれまでさまざまな場所で経験を積んできたからです。」
彼はさらりと答えた。「ですが、それ以上のことを話す必要があるかもしれませんね。」
ヴェルナはその言葉に興味をそそられた。彼の過去について詳しく聞いたことはなかったが、彼女の中で疑問が膨らんでいくのを感じていた。
---
その夜、ヴェルナはエリオットに夕食後の時間をもらい、彼の正体について詳しく聞くことを決意した。二人は書斎で向き合い、エリオットはいつもの落ち着いた表情で座っていた。
「エリオット、私はあなたに感謝しているし、心から信頼しています。」
ヴェルナは真剣な表情で言った。「でも、あなたのことをもっと知りたいの。あなたがどうしてこんなに多才で、私を助けてくれるのか、その理由を知りたいわ。」
エリオットは少し考え込むように視線を落とした後、静かに語り始めた。
「ヴェルナ嬢、あなたがこれまで私に示してくださった信頼に応える時が来たのかもしれませんね。」
彼の声には、いつもよりも深い感情が込められていた。「実を言うと、私はただの商人ではありません。」
---
彼はそこで一息つき、窓の外に目を向けながら続けた。
「私はある名家の次男として生まれました。」
エリオットの言葉に、ヴェルナは驚きの表情を隠せなかった。「家督を継ぐことはありませんでしたが、その代わりに商業や経営について学ぶ機会を与えられました。しかし、私は自由を求めて家を出ることを選び、自分の力で生きていく道を選びました。」
「名家の……次男?」
ヴェルナは驚きを隠せずに問い返した。「それなら、なぜ私のような人を助けてくれるの?」
「それは、あなたが特別だからです。」
エリオットは真っ直ぐな目で彼女を見つめながら言った。「あなたの勇気、誠実さ、そして誰よりも領地を良くしようとするその姿勢に、私は心を打たれました。だからこそ、あなたを助けることが私の使命だと思ったのです。」
---
ヴェルナはその言葉に胸が熱くなるのを感じた。彼の言葉には嘘偽りがなく、彼女自身を真剣に見つめてくれていることが伝わってきた。
「エリオット……。」
ヴェルナは感謝の気持ちで言葉を紡ごうとしたが、感情が溢れて何を言えばいいのか分からなかった。
「私は、あなたを信じています。」
彼女は少し震えた声で続けた。「どんな過去を持っていても、あなたが私を支えてくれたことに変わりはないわ。」
エリオットは優しく微笑み、静かに頷いた。
「ありがとうございます、ヴェルナ嬢。」
彼は穏やかに言った。「これからも、あなたの力になれるよう全力を尽くします。」
---
その夜、ヴェルナは自室で一人になり、エリオットの話を何度も思い返していた。彼の過去、そして彼が自分を支える理由を知ったことで、彼女の中に新たな感情が芽生えていた。
「エリオットは、私にとって特別な存在……。」
ヴェルナは静かに呟いた。「でも、それをどう伝えればいいのか分からない……。」
一方、エリオットもまた、自室で窓の外を見つめながら考え込んでいた。彼の心の中には、ヴェルナへの思いが確実に育まれていた。
「ヴェルナ嬢がこれほどの人だとは……。」
彼は静かに呟いた。「私が彼女を支える理由は、それ以上に言葉で説明する必要もないのかもしれない。」