エリオットの過去が明らかになり、ヴェルナの心にはこれまで以上に彼への信頼と感謝が深まっていた。それと同時に、彼女の胸に芽生え始めていた感情が、日に日に大きくなっていることに気づいていた。それは、ただの感謝や信頼ではなく、もっと深い何かだった。
「これが恋というものなのかしら……。」
ヴェルナは書斎で書類に目を通しながらも、ふとエリオットのことを思い浮かべ、心の中で呟いた。
そんな中、エリオットが書斎を訪れた。彼は新しい市場展開の提案を持ってきたが、ヴェルナはその提案以上に、彼の存在そのものが自分にとって特別なものだと感じ始めていた。
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「ヴェルナ嬢、先日の薬草と染料の市場展開ですが、新たな地域での需要が高まっています。」
エリオットはいつもの冷静な声で言った。「こちらがその詳細なデータです。」
「ありがとう、エリオット。」
ヴェルナは彼から資料を受け取りながら微笑んだ。「あなたの働きにはいつも感謝しているわ。」
「恐縮です。」
エリオットは穏やかな表情で答えた。「これもすべて、ヴェルナ嬢の行動力があってこその結果です。」
彼の言葉には、いつも以上に柔らかな温かみが感じられた。それは、彼女をただの雇い主としてではなく、もっと特別な存在として見ているような雰囲気だった。
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その日の午後、二人は庭園で休憩を取っていた。心地よい風が吹き抜け、花々の香りが漂う中、ヴェルナはエリオットと向かい合って座っていた。
「エリオット、あなたはこれまでに恋をしたことがあるの?」
ふいにヴェルナは尋ねた。自分でも驚くほど突然の質問だったが、その言葉を引っ込めることはできなかった。
エリオットは一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに穏やかな笑みを浮かべた。
「ええ、あります。」
彼は少し遠くを見つめながら答えた。「しかし、それはずっと昔の話です。今は、私の心を占めるものは別のものです。」
「別のもの?」
ヴェルナはその言葉に興味を引かれた。
「ええ。」
エリオットは彼女を見つめながら続けた。「それは、私が大切だと思う人々のために働くこと、そしてその人々が幸せになる姿を見ることです。」
彼の言葉には、真摯な思いが込められていた。それを聞いたヴェルナは、胸が熱くなるのを感じた。
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その夜、ヴェルナは自室でエリオットとの会話を思い返していた。彼の真摯な態度と優しさに触れるたびに、彼女の中で芽生えた感情が確かなものへと変わっていく。
「エリオット……。」
彼女は静かに呟いた。「あなたは、私にとってただの協力者ではないわ……。」
彼女は自分の気持ちをエリオットに伝えるべきなのか、それとも今の関係を続けるべきなのか迷っていた。しかし、彼に対する思いが日に日に強くなるのを抑えることはできなかった。
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一方、エリオットもまた、ヴェルナへの思いを深めていた。彼はこれまで冷静で感情を表に出さない人物として振る舞ってきたが、彼女の優しさや努力に触れるたびに、自分の中にある特別な感情に気づき始めていた。
「ヴェルナ嬢は、本当に素晴らしい方だ。」
エリオットは夜の静けさの中で一人呟いた。「彼女を支えることができるのは、私にとって何よりの幸せだ……。」
彼は、自分の気持ちを彼女に伝えるべきかどうかを考えていた。しかし、彼女のために今できることは、引き続き彼女を支えることであると結論づけた。
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翌朝、ヴェルナはエリオットと共に新しい計画について話し合っていた。二人の会話はこれまでと同じようにスムーズだったが、その中にはこれまで以上に親密さと信頼が感じられた。
「エリオット、これからも私を支えてくれるかしら?」
ヴェルナはふと尋ねた。
「もちろんです。」
エリオットは即座に答えた。「ヴェルナ嬢が望む限り、私はいつでもあなたの力になります。」
その言葉に、ヴェルナは静かに微笑んだ。彼への感謝と愛情が、ますます強く心に根付いていくのを感じた。