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第3話 セリカとの逢瀬

リュミエール王国の広大な王宮庭園は、季節ごとに美しい花々が咲き誇る場所だった。アコード王子は、そこでよくセリカと散歩をしながら会話を楽しんでいた。彼女がまだ4歳の幼い少女であった頃、最初の逢瀬ではアコードは戸惑いを隠せなかった。だが、彼女と話を重ねるごとに、その幼い見た目に反して持ち合わせている知識と聡明さに気づき、彼の心は次第に彼女に惹かれていった。


セリカは、年齢にしては驚くほど早熟な知恵を持ち、好奇心旺盛な性格で、常に新しいことを学びたがっていた。彼女の興味は、他の子供たちが夢中になるような遊びではなく、むしろ国や領地の仕組みに向けられていた。幼少期からディオール公爵家で厳格な教育を受けていたこともあり、彼女の知識は深く、アコードとの会話でもその知性が際立っていた。


「アコード様、領地の税制について少し教えていただけますか?」


ある日の逢瀬で、セリカは突然、王子にそんな質問を投げかけた。アコードは驚きながらも、彼女の純粋な興味に応えた。


「もちろん、セリカ。税制というのは、国や領地が民衆から徴収するお金のことだ。税金は、王国の運営や領民の生活を守るために使われるんだよ。」


アコードはできるだけわかりやすく説明しようとしたが、セリカの瞳はその言葉を真剣に受け止め、まるで何かを深く考え込んでいるようだった。


「でも…領地によって税金の使い方が違うこともありますよね?」セリカはさらに突っ込んだ質問をする。


アコードは再び驚いた。彼女の質問は明らかに彼女がただの幼い少女ではなく、すでに領地の運営や国の仕組みに対して深い興味を持っていることを示していた。


「その通りだよ。各領地の領主がその地域の状況に合わせて使い方を決めるんだ。たとえば、ある領地では農業の支援に使うかもしれないし、別の領地では防衛に重点を置くこともある。」


セリカはうなずき、真剣な表情で聞いていた。その様子に、アコードはますます彼女に引かれる思いを感じた。彼女はただの政治的駒ではない、彼女自身が強い意志と知恵を持ってこの世界で生きているのだということを、彼は徐々に理解し始めていた。


逢瀬を重ねるたびに、セリカはさらにその聡明さを発揮していった。まだ子供でありながら、彼女はすでに領地経営に対する具体的なアイデアを持ち、未来に対して明確なビジョンを描いているかのようだった。アコードは、そんな彼女との会話を楽しむようになり、彼自身もまた、彼女から学ぶことが多いことに気づいていった。


ある日、二人は王宮の図書館で共に本を読んでいた。セリカは古い書物を手に取り、じっとそのページをめくっていた。アコードが近づくと、彼女はふと顔を上げ、王子に問いかけた。


「アコード様、この本に書かれている昔の王国の歴史、とても興味深いです。昔はもっと違う方法で領地が運営されていたみたいですね。」


彼女が手にしていたのは、リュミエール王国の古い歴史書だった。アコードはその書物の内容を思い出しながら、答えた。


「そうだね。この王国は昔、もっと封建的な体制だった。領主たちが自分の領地を完全に独立して運営していたんだ。しかし、今では中央集権化が進み、国全体としての統一が図られているんだよ。」


セリカは熱心に話を聞き、続けて言った。「でも、各領地がもっと自由に運営できる方がいいんじゃないかしら?その土地のことを一番よく知っているのは領主たちですし、中央の決定にすべてを依存するのは、時には効率が悪いこともあるかもしれません。」


アコードは驚愕した。セリカの言葉は単なる子供の意見ではなく、しっかりとした考察に基づいたものであり、王国の未来を見据えたものであった。彼はその瞬間、彼女がこの王国にとって大きな存在になることを確信した。


「セリカ、君の考えはとても鋭い。確かに、領地運営の自由度を高めることには一理ある。だが、それを実現するためには、王国全体がもっと調和を保つ必要があるんだ。それが難しいところだよ。」


アコードは彼女の意見に真剣に耳を傾けつつも、現実的な課題を説明した。彼女との会話はもはや年齢差を感じさせるものではなく、まるで対等なパートナー同士のようだった。


だが、アコードの心の中には徐々にある葛藤が生まれ始めていた。彼はセリカとの逢瀬を重ねるたびに、彼女への感情が強まっていくのを感じていた。彼女は単なる婚約者ではなく、彼にとって大切な存在になりつつあった。しかし、同時に彼は彼女との年齢差や、将来の二人の関係について深い悩みを抱くようになっていた。


「私は30歳を超える頃、彼女はまだ16歳だ。その時、彼女は本当に私と結婚することを望むだろうか?」


アコードは心の中で自問自答した。セリカは若く、彼女にはまだたくさんの可能性がある。彼女が成長するにつれて、もっと素晴らしい未来が彼女の前に広がるかもしれない。そんな彼女に対して、自分が結婚相手としてふさわしいのか、彼は深く悩み始めた。


「彼女はただの政治的駒ではない。彼女自身が輝ける未来を持つべきだ。」


アコードは、次第に彼女に対する愛情と同時に、彼女を縛ることへの罪悪感を感じるようになった。彼女を愛するがゆえに、彼女の自由を奪うことが自分にはできないのではないかという思いが胸を締めつけた。


「セリカには、もっと自由な未来があるべきだ。私は彼女にその自由を与えるべきではないだろうか…」


アコードは、彼女との逢瀬を重ねるごとに、その思いが強まっていった。彼女の聡明さや知識に感嘆する一方で、彼女に対して自分ができる最善の選択は何なのかを、真剣に考え始めるのだった。



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