リュミエール王国の宮殿に佇むセリカ・ディオールは、目の前にいるアコード王子からの言葉を静かに聞いていた。その場に集まった王国の重鎮たちは、彼女の反応を慎重に見守っている。
「セリカ嬢、この度の婚約は、国の事情により解消せざるを得ないことを理解していただきたい。」
王子の声には、どこか申し訳なさを含んだ響きがあった。しかし、幼いながらも冷静で聡明なセリカは、その理由を十分に理解していた。婚約が破棄される背景には、政治的な要因があり、彼女にとって感情的に受け止めるべきものではなかった。
セリカは静かに頭を下げた。
「かしこまりました。王国のご判断に従います。」
その一言は、幼さを感じさせないほど毅然としたものであった。彼女はわずかに笑みを浮かべ、周囲の大人たちに驚きを与えた。通常ならば、破棄されたことに悲しみや怒りを感じてもおかしくはない場面で、セリカは感情を見せなかった。
王子やその周囲の者たちが戸惑う中、セリカはすでに次の一手を考えていた。彼女にとって婚約破棄は、未来への扉を開くきっかけでしかなかった。前世での記憶と経験を持つ彼女にとって、この状況はむしろ自由への第一歩であり、王家のしがらみから解放された瞬間だった。
宮殿を後にし、馬車に乗り込んだセリカは、窓の外に広がる景色を見つめながら小さく息を吐いた。冷静さを保っていたものの、やはり一抹の不安が胸をよぎる。自分がこれから進むべき道、そしてその先にある目標。彼女は自然と、次に自分がすべきことを考え始めた。
「婚約がなくなった今、私にはもっと自由に動ける時間ができる。これを活かして、領地の発展に集中しよう。」
ディオール家はリュミエール王国でも有力な貴族家であり、その広大な領地を持っていた。セリカの父であるディオール公爵は、領民たちからも尊敬される有能な統治者であったが、セリカはその統治に改善の余地があることを感じ取っていた。
「父上は素晴らしい領主だけど、もっと効率よく、合理的に領地を発展させる方法があるはず。」
セリカは自分の手でディオール領をさらに繁栄させることを心に決めた。そのためには、ただの子供のように扱われるわけにはいかない。彼女は自らの知識と能力を示すことで、父や周囲に自分が本気であることを証明しようと決意する。
この瞬間、幼い公爵令嬢としてのセリカは、内に秘めた覚悟を固めた。彼女は王国の未来を見据え、そして自らの手で領地を変える力を信じていた。
こうして、セリカの新たな挑戦が始まった。