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第13話 エル・ドライド3



エル・ドライドが去った後、セリカは一人静かに椅子に座り、彼の冷たい言葉を反芻していた。「ままごとに付き合う趣味はない」。その言葉はあまりにも率直で、彼女の未熟さを指摘しているかのようだった。しかし、その冷淡な一言が、セリカの中に炎を灯した。彼女はあの男を仕官させ、彼に自分の力を認めさせることを決意した。


「ままごと…ですって?」


セリカは静かに呟きながら、窓の外を見つめた。外では庭の花が風に揺れていたが、セリカの心の中では、嵐が渦巻いていた。彼の言葉は痛烈だったが、同時に正直であり、彼女にとって無視できない現実を突きつけられたように感じた。


「確かに、私はまだ若いし、領地運営に関しても経験が少ないかもしれない。でも、それがどうしたの?」


彼女は立ち上がり、机の上に置かれた地図に目をやった。ディオール領の広大な土地がそこに描かれており、彼女の目標はこの領地を繁栄させることに他ならなかった。エル・ドライドに軽視されたからといって、彼女の決意が揺らぐことはなかった。むしろ、彼の言葉が彼女の挑戦心に火をつけた。


「ならば、実績を示してやるわ」


セリカは小さく呟いた。エル・ドライドが何を求めているかははっきりしていた。彼は言葉や理想だけでは動かない。具体的な成果が必要なのだ。そしてそれを成し遂げるのは、今のセリカにとってまさに試練であり、挑戦でもあった。


彼女は早速、領地改革を加速させるために具体的な計画を立て始めた。これまでは慎重に進めていた平民の登用や農業の改革計画を、より実践的で迅速に進める必要があると感じた。彼女はこれまで以上に集中し、次々と新しいアイデアを練り上げた。


「これを機に、もっと積極的に動くべきね」


セリカはすぐに執事や領地の役人たちを呼び出し、改革の加速を指示した。彼女が進める改革は、従来の貴族主導のものとは違い、平民の力を引き出し、彼らを積極的に活用することを目的としていた。これまでの伝統にとらわれず、彼女は自らの知識を駆使して、領地全体を活性化させる計画を立てていたのだ。


しかし、それは簡単なことではなかった。彼女の若さや未経験さを理由に、保守的な貴族たちからの反発も多かった。エル・ドライドの言葉が象徴するように、多くの者はセリカの改革を「ままごと」と見なしていた。だが、彼女はその見方を変えるため、あらゆる手段を講じて改革を進めるつもりだった。


「私を見くびっている者たちに、見せつけてやるわ」


セリカはその決意を胸に、次のステップへと進んだ。彼女は農業分野での技術革新を加速させるために、前世の知識を活かし、効率的な作物の栽培法や、灌漑システムの導入を検討した。また、商業の活性化のため、ディオール領内での交易路の整備や新しい市場の開拓にも着手した。彼女は一つ一つのプロジェクトに自ら関与し、具体的な成果を上げることで周囲の信頼を得ようとしていた。


その過程で、彼女は貴族たちの協力も求めることを忘れなかった。どんなに優れた計画であっても、一人で成し遂げることはできない。セリカは彼女の改革に賛同する貴族たちを見つけ出し、彼らと協力して改革を進めることにした。最初はわずかな者しか協力しなかったが、彼女の誠実さと行動力に触れ、次第に協力者は増えていった。


「結果を見せれば、必ず認めてもらえるはず」


セリカの内には、そうした確信があった。彼女は日々の業務に打ち込みながら、領地全体を発展させるための改革を着実に進めていった。エル・ドライドに認めさせるためには、言葉ではなく、実績が必要だ。彼女はそれを誰よりも理解していた。


そして、彼女が積み重ねた小さな成功は、やがて大きな成果へとつながり始めていた。農業の改革は順調に進み、商業の活性化も着実に成果を上げていた。ディオール領は少しずつだが、確実に変わりつつあった。


「これでいい…少しずつでも、進んでいる」


セリカはそう自分に言い聞かせながらも、心の中でエル・ドライドの言葉が常に響いていた。「ままごと」と言わせたあの男に、自分の改革がどれほどのものかを見せつける日が、必ず来ると彼女は信じていた。


「まだ始まったばかりよ。でも、必ず彼を納得させてみせる」


セリカは自らの決意を再確認し、さらなる改革に挑む覚悟を固めた。彼女の視線は未来に向けられ、ディオール領の新たな時代を切り開こうとしていた。そして、エル・ドライドが再び彼女の前に現れる日まで、彼女は決して諦めることなく、改革の歩みを進めていく。



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次の一手はもう決まっている。



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