セリカが教師たちに厳しく叱責した後の空気は、どこか緊張感が張り詰めていた。教師たちは全員、深く頭を下げ、教室での失態を謝罪しながらその場を退散していった。教師たちが去った後、セリカは深い息を吐き出し、ようやく自分のした行動の重さを実感した。
「これで本当に彼らが変わってくれればいいけれど…」
セリカは独り言のようにつぶやいた。彼女は自らの行動が果たしてどれほどの影響を与えたのか、その効果を見極める必要があった。言葉だけでは人の心は変わらない。教師たちがこれからどのように行動するか、それをしっかり見守るつもりだった。
その時、背後から静かな笑い声が聞こえた。
「ははは…いや、まさかこんな光景を目にするとは思いませんでしたよ」
セリカが振り返ると、そこにはエル・ドライドが立っていた。彼は珍しく口元をゆるめており、その表情には普段の冷徹さではなく、どこか楽しげな感情が垣間見えていた。セリカは少し眉をひそめたが、そのまま問いかけた。
「何がおかしいの?」
エル・ドライドはそのまま肩をすくめ、答えた。「いや、あなたが教師たちをあんなにやり込めるとは思っていなかったものですから。あれでは彼らもさすがに懲りたでしょうね。少なくとも、もう手を抜くような授業はしないでしょう」
セリカは少しムッとしながらも、エル・ドライドの言葉に真実が含まれていることを感じた。「そう願いたいわ。これ以上、子供たちが不利益を被るのは許せないもの」
「ふむ。お嬢様、本当に面白い方ですね」エル・ドライドは再び笑みを浮かべた。「まさか、あの教師たちに対してあれほど毅然とした態度を取るとは。普通、あなたのような立場の人間は、ああいう現場に直接関与することすら避けるものです」
「教師たちが平民の子供たちを真剣に教えないなら、どうしようもないでしょ?私が行動しなければ誰が動くというの?」
エル・ドライドは少し驚いたように彼女を見つめ、その後深くうなずいた。「確かに、その通りですね。あなたの行動力と決断力は見事です。まるで、貴族でありながらも現実を見据えて動ける人間のようだ」
セリカはその皮肉のような褒め言葉に対して、軽く肩をすくめた。「それって褒めてるのかしら?」
「もちろんです」とエル・ドライドは頷いた。「そして、お嬢様。私もあなたの手伝いをさせていただきたいと思います」
セリカは少し驚いた表情を見せた。「本当?あの時は、ままごとに付き合う気はないって言ってたじゃない」
エル・ドライドは静かに微笑みながら、「確かにそう言いました。ですが、あなたのやり方を見て、考えを改めました。あなたの情熱と決意、それに実行力を目の当たりにして、私も少し手伝ってみたくなったのです」
セリカは思わず微笑んだ。「そう?それは嬉しいわ。でも、どうして急に手伝ってくれる気になったの?」
「あなたのやっていることは、以前私が仕えていた領主に提案したことと同じです。しかし、彼は全く聞く耳を持たなかった。あなたは違う。あなたは意見を聞き入れ、行動に移せる力を持っている」
その言葉に、セリカは少し考え込んだ。確かに、エル・ドライドが協力してくれることは大きな前進だ。彼の知識と経験は、平民の教育改革だけでなく、領地全体の発展にも貢献するだろう。
「でも、あなたに本格的に手伝ってもらうなら、条件があるわよね?」セリカは冗談交じりに言った。
エル・ドライドは頷き、「はい、あります。まず、私の代わりに適任の護衛騎士を見つけてください。あなたの護衛を確実にするためにも、信頼できる人物を配置する必要があります」
セリカは少し首をかしげた。「ジーンじゃダメなの?」
「ジーンは忠誠心に溢れた優秀な人物です。しかし、いざという時に備えて、もっと強力な護衛が必要です。あなたの安全が最優先ですからね」
「なるほど、わかったわ。あなたが本格的に手伝ってくれるなら、適任の騎士を見つけてみせるわ」
セリカはエル・ドライドの提案を受け入れ、新たな決意を胸に抱いた。彼の協力を得ることで、平民教育の改革がさらに進展することは間違いなかった。だが、同時に護衛の強化という新たな課題も抱えることになった。セリカは早速、適任の騎士を探すために動き出す準備を整えた。
エル・ドライドが笑みを浮かべたまま、静かに言葉を付け加えた。「私も楽しみにしています。あなたがどこまでやれるのか。お嬢様の未来を、私の目で見届けたいものです」
セリカは微笑み返し、彼に答えた。「じゃあ、見届けてもらうわ。これからもよろしくお願いね、エル・ドライド」
こうして、セリカの平民教育改革は、新たな一歩を踏み出すこととなった。エル・ドライドという有能な文官の協力を得たことで、セリカの改革はさらに大きな飛躍を遂げることが期待された。そして彼女は、これから先に待ち受ける新たな挑戦に向けて、少しずつ準備を整えていった。