セリカは前日の視察で、教師たちが授業を形式的にこなしているのを目の当たりにした。その態度を厳しく指摘したものの、彼女の再視察があるとは教師たちも思っておらず、その場限りで真面目なふりをして授業を終えた。
翌朝、教師たちは前日通り、職員室でのんびりと雑談をしながら時間を過ごしていた。彼らは授業の準備をすることもなく、セリカの視察は単なる貴族の「気まぐれ」だと高を括っていた。ある教師が話し始める。
「いやぁ、昨日のあの小さなお嬢様、本当に気まぐれなもので。平民相手に教育だなんて、なかなかの夢見心地じゃないか」
その言葉に別の教師も同調するように笑う。
「まったく、平民の教育にそこまで熱意を注ぐなんて、今時の貴族らしくもない話だね。どうせもう来ないだろう」
職員室が笑いに包まれる中、誰もが次の授業に備えることもなく、気を抜いた態度を見せていた。
だが、いざ教室に入ると、その気の緩みが一気に引き締まることになる。教壇に立つためにドアを開けた瞬間、教師たちの目に飛び込んできたのは、昨日と同じく最前列の席にちょこんと座っているセリカの姿だった。しかも、ただ座っているだけではない。彼女の眼差しは静かでありながらも、鋭く教師たちを見据え、「今日からは、真面目にやるでしょうね?」という無言の圧力を放っていた。
教師たちは思わず目を見開き、内心で焦りながら冷や汗をかいた。まさか毎日、こうして見張られることになるとは誰も想像しておらず、適当に授業を済ませるつもりでいた彼らの態度は、瞬く間に引き締まった。セリカの存在が教室全体に緊張感を与え、教師たちは慌てて授業を始めるも、彼女が見ているというだけで、ぎこちない手つきで教鞭を振るうことしかできない。
その日、授業が終わり、教師たちが職員室に戻ると、互いにため息をついた。
「まさか、あのお嬢様がこんなに毎日通ってくるとは…」
「適当にやり過ごそうにも、どうにも気を抜けん…」
教師たちは互いに顔を見合わせ、もはや逃げ場がないと悟った。しかし、セリカは教師たちにさらに衝撃を与える発表をする。
数日後、再び教室を訪れたセリカは、教師たちに冷静に言い放った。
「皆さんにはこれから、生徒の成績を上げるための真剣な指導をお願いしたいと思います。しかし、それが難しいようであれば、他の方にお願いするしかありません」
教師たちは、一瞬何を言われているのか理解できなかったが、セリカは続ける。
「今後、教師の評価は生徒の投票によって行います。そして、その成績が芳しくない方は、新しい教師に交代していただくことになります」
その場が一気にざわついた。教師たちはお互いに顔を見合わせ、思わず声を漏らす。
「な…生徒の投票で評価を決めるですって?」
「そんな査定方法があるものか!」
教師の一人が声を上げるが、セリカは怯むことなく、その教師の目をじっと見据える。
「皆さんの良し悪しを判断するのは、生徒たちこそが最適です。教師としての本当の評価を得たいなら、私ではなく、生徒たちが適任だと考えます」
その言葉に、教師たちは言葉を失った。まるで彼らの全てを見透かしているかのようなセリカの自信と強い意志に、教師たちは圧倒され、文句を言う気力も失ってしまった。彼女の提案がただの思いつきではなく、本気で教師の質を改善するための施策であると気づかされたのだ。
「生徒たちのために、教える立場の方がしっかりと向き合ってくれることを望んでいます」
セリカの静かな声が教室内に響くと、教師たちはようやく自分たちの立場を理解し始めた。この投票制度の導入により、教師たちは生徒を軽視できない状況に追い込まれ、やむを得ず真剣に授業に臨まざるを得なくなっていった。