セリカは学校に通い始めて数日が経ち、教師たちの授業の質や子供たちの反応を観察しながら、疑問に感じることがいくつか出てきた。その中でも、給食の質の低さは気になる点のひとつだった。子供たちの健康や成長にとって大切な食事が、貧弱な内容で毎日同じような献立ばかりだったからだ。
ある日の昼休み、セリカは隣の席の生徒に問いかけてみた。
「ねえ、給食ってイマイチじゃない?」
しかし、相手の生徒は少し驚いた様子で首を振り、「え? 毎日ちゃんとお昼が食べられるだけでも十分だよ。うちじゃあこんなに毎日食べられないこともあるんだ」と答えた。
その言葉に、セリカは衝撃を受けた。彼女にとって当たり前だと思っていた食事が、平民の子供たちには「ありがたい」ものだと感じられている。その現実を知ると、自分がどれほど彼らの日常からかけ離れた感覚でいたのかを痛感せざるを得なかった。
「そう…そうなんだ…」と、返事をしながらも、心の中はもやもやとした疑念でいっぱいだった。
それでも、給食が貧弱であることには変わりないし、もっと栄養価の高い食事を提供するべきだとセリカは思った。しかし、現在の給食の予算がどれだけ使われているのかもわからないし、限られた費用の中で工夫しているのかもしれないと考えると、安易に批判もできなかった。
だが、何かが引っかかる。実際に給食がここまで質素なままである理由はどこにあるのか、そして、本当に予算が十分に使われているのか。セリカは次第に、予算の使い道に問題があるのではないかという疑念を持つようになる。
そこで、彼女は直接調理場に向かい、調理担当の職員に質問してみることにした。いつも忙しそうに給食を準備している職員たちは、セリカの訪問に驚きつつも、真摯に対応してくれた。
「給食の内容について少し気になってるんですけど、どうしてこんなに質素なんですか?」と尋ねると、調理担当の職員は少し困った顔で説明を始めた。
「現状、限られた予算内で多くの子供たちに食事を提供するのが精一杯です。できるだけ栄養面も考慮しようとは思っているんですが、どうしても質を高めるには限界がありまして…」
「予算って、そんなに厳しいものなんですか?」と問い詰めるような口調になってしまったが、職員はため息交じりに頷いた。
「そうなんですよ。最初はもう少し予算があると聞いていたんですが、実際に割り当てられる額が思ったより少なくて…」
セリカはその話に納得がいかなかった。もし予算が十分でないのであれば、何かが途中で不正に使われている可能性がある。だが、このままでは調理担当者の話だけでは真偽がわからないし、もっと深いところまで調べなければならないと感じた。
「そうか…ありがとう。もう少し調べてみるわ」と礼を述べてから、その場を離れた。
歩きながらセリカは、「もしかしたら、予算がどこかで横領されているのかもしれないわね」と考えを巡らせる。だが、学校の運営や予算の管理に関する情報を得るには、さらに慎重な調査が必要だろうと判断した。
その日の夜、セリカは部屋でエル・ドライドに相談を持ちかけた。彼の知識と経験ならば、この状況を少しは解明できるかもしれないと期待してのことだった。
「エル・ドライド、給食の予算がうまく使われていない気がするんだけど、どう思う?」
エル・ドライドは少し考え込んだ様子で、いつもの冷静な表情を崩さずに答えた。「確かに、そのような疑念は無視できない問題です。しかし、具体的にどこで予算が不正に使われているかを特定するのは簡単ではありません。管理部門に根回しをし、調査を行う必要があるでしょう」
彼の言葉には一理あるものの、あまり協力的な態度ではないように感じたセリカは、「なら、私が直接調査するしかないわね」と決意を新たにした。エル・ドライドは少し驚いた表情を見せつつも、彼女の決意に対して静かに頷いた。
「お嬢様の意志は固いようですね。それならば、私が協力いたしましょう。ただし、慎重に行動することをお忘れなく」
翌朝、セリカは粗末な服に着替え、平民の子供として再び学校に足を踏み入れる。教師や管理部門の目を避けながら、給食予算の管理や使途について、直接確認していく覚悟である。