廊下を歩いていたセリカは、何かに夢中になっている様子の大柄な少年にぶつかられ、思わず体がよろけた。
「ちょっと、気をつけなさいよ!」セリカが声を荒げると、少年は少しも謝る気配を見せず、むしろ睨み返してきた。
「なんだよ、ちびのくせに生意気なんだよ、このちび!」
その言葉に、セリカの表情が一瞬で険しくなった。「ちびですって?ウドの大木!でかいのは体と声と態度だけのちっちゃい男のくせに!」
その挑発に、少年の顔はみるみる赤くなり、二人の間に緊張が走った。どちらも一歩も引かない様子で、取っ組み合いになりかねない勢いだ。すぐに近くの生徒たちが足を止め、二人のやり取りを興味深そうに見つめ始めた。
「なんだと!ちびはちびのくせに俺に口答えするな!」
「謝りなさいよ!ぶつかってきたのはそっちでしょ?」
「謝る?なんで俺が?偉そうにしてんじゃねえ!」
言葉の応酬が激しくなる中、ついに二人は手を伸ばし、互いに睨み合いながら間合いを詰めていく。どちらも本気で怒っており、誰も間に入ろうとしなかった。
そのとき、廊下を歩いていた教師がこの様子を目に留め、駆け寄ってきた。「ちょっと君たち!何をしているんですか!」
教師の声で、セリカと少年はふっと手を止め、互いに渋々視線を下げたが、まだ怒りは収まっていない。
「ここは学校ですよ。大声で言い争うなんて恥ずかしいと思わないのですか?」
二人は互いに納得いかない顔をしていたが、教師の前では反論せずに押し黙った。まわりの生徒たちも、二人を興味深そうに見ていたが、教師の姿を見てそれぞれに散っていった。
セリカは少し腹立たしそうに少年を見ながら、教師の注意を聞き入れ、再びため息をついたが、内心では平民の中に混ざって過ごすことが意外と刺激的だと感じ始めていた。