ドライドは冷静に、しかし少し厳しさを帯びた口調で言った。「お嬢様、あなたはもっと理性的な方だと思っていましたが、子供らしさをこういう場所でアピールするのは控えていただきたい。」
セリカは肩をすくめて返した。「まぁ、これは単なるストレス発散よ。安心して、本気で怒っているわけじゃないから。」
ドライドはその返答に少し眉をひそめ、冷静な表情で問いかける。「それでも、公爵令嬢であるあなたが平民と喧嘩になるのは、感心できませんね。次はもう少し自制していただけると助かります。」
「わかってるわ。でも、たまにはこうやって自分を解放しないと、いろんな意味で爆発しちゃうかも?」とセリカは軽く微笑んで返したが、その目には自分の行動への自覚が見え隠れしていた。
「とはいえ、他人を巻き込むのは控えていただきたいものです。」ドライドは冷静にそう言ったが、その声には少しだけ柔らかさが感じられた。セリカはその態度に少しホッとしつつも、ドライドの真面目さにやや肩をすぼめた。
「それに、あの子の態度がどうしても気に入らなかったの。失礼で、まるで私を馬鹿にしているようだったのよ。」セリカは不満を漏らしながらも、平民とのふれあい方を再考する様子だった。
ドライドは静かにうなずき、「確かにそのような態度は不愉快ですね。しかし、お嬢様は公爵令嬢です。感情に流されず、冷静に対処するのも大切です。」と諭すように言った。
セリカは彼の言葉にじっと耳を傾け、小さく息をついて言った。「分かっているけど…あの時はどうしても腹が立ったのよ。」
ドライドは軽く笑みを浮かべながら、冷静に言葉を続けた。「感情は大事ですが、コントロールする力も同じくらい大切です。平民のふりをしているからといって、あなたが公爵令嬢であることに変わりはありません。」
セリカは少し冗談めかして、「わかったわ。じゃあ次からはもっとおとなしくしてみる。でも、また向こうから喧嘩を売られたらどうしようかしら?」と返した。
ドライドはため息をつきながら、冷静に答えた。「その時は理性的に対処してください。期待していますよ、お嬢様。」
彼はさらに続けた。「あなたの立場を考えると、つまらないことで怪我をしていただくわけにはいきません。それを十分に自覚してください。」
セリカは、ドライドが見せる冷静な忠告に内心の緊張が和らいだ気がした。「確かに、怪我をしたら何もできなくなるわね。」と不満そうな表情ながらも頷いた。
「ですから、安全のために、ジーンを学校に通わせることを提案します。」ドライドが真剣な表情で提案した。
「ええっ?」と驚きの声を上げるジーン。
ドライドはジーンに視線を向けて続けた。「もちろん、あくまで自然に護衛として。お嬢様が平民として潜入しているので、明らかに護衛とわかる者をつけるわけにはいきません。その点、あなたなら子供として通用します。」
「ひどい…私は立派な大人ですよ!」ジーンは抗議の視線を向けた。
「ですが、お嬢様を護衛するという点では、適任だと考えます。」ドライドは冷静に言った。
セリカはクスクスと笑い、ジーンに頷いて見せた。「ジーン、こうして一緒に学校で過ごせるなら、楽しそうじゃない?」
ジーンはため息をつきつつも、セリカへの忠誠心から「お任せください!」と力強く答えた。
翌朝、ジーンは普段の甲冑姿とはまるで違う、平民の子供らしい簡素な服をまとってセリカの前に現れた。表情には少し不満が浮かんでおり、何度か裾を引っ張りながらそわそわしている。
「なんで私がこんな格好を…」とジーンはぼやき、やや唇をとがらせた。
その様子を見たドライドは、冷静なまま口元にわずかな笑みを浮かべ、「普段のいかつい甲冑より、こちらの方がよくお似合いですよ。」と皮肉を込めて返す。
「褒められた気がしません!」ジーンは即座に反論し、ドライドに鋭い視線を投げかけた。しかし、ドライドは肩をすくめ、どこ吹く風といった様子で、微笑を浮かべたままだ。
「お嬢様も、率先して平民の服装を選ばれていますからね。」ドライドはセリカを指しながら言った。
セリカはすでに平民の子供のような質素な服に身を包み、全く気にする様子もなく、満足げに微笑んでいる。
ジーンはその姿を見て、内心で小さく舌打ちした。自分は騎士であり、セリカを守る盾として育てられてきた身だ。だが、姫君がこうして平民の姿で潜入する以上、たとえどんな服装であろうと従わざるを得ない。
「分かりました、お嬢様。私も精一杯、平民の一学生としてお供させていただきます。」ジーンは決意を固めた表情で言ったが、どこかしっくりこない心情は隠せないままだった。
「ありがとう、ジーン。あなたがそばにいてくれるなら安心ね。」セリカは柔らかい笑顔をジーンに向け、肩を軽く叩いた。
その言葉を受けて、ジーンは心の中で忠誠を新たに誓った。「お嬢様のためならば…」と強く思うものの、やはりこの服装で護衛をするのには違和感を抱いていた。
「まあ、護衛の任務とはいえ、この場では控えめにお願いしますよ。平民のふりをしている間は、あまり騎士らしさを見せずにお願いしますね。」ドライドは冷静に付け加えた。
ジーンはため息をつきながら、「それが無理なのはご存じでしょう」とぼやきつつも、セリカを守るという信念で胸を張り直した。
こうしてセリカ、ドライド、そしてジーンの三人は、それぞれの思いを抱えながら新たな一日を迎えるのだった。