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第26話 カイルと妹

放課後、セリカは学校の門を出てしばらく歩いたところで、小さな女の子が一人で泣きそうな顔をして立っているのを見かけた。女の子は服が少し汚れ、道端にしゃがみ込んで、不安そうに周りを見渡している。セリカはその様子を見過ごすことができず、そっと足を止めた。


「どうしたの?」と、やさしく声をかける。


少女は少し驚いたように目を丸くしたが、セリカのやさしい表情を見て少しずつ表情が和らぎ、安心したように顔を上げた。「えっと…お兄ちゃんを迎えに行く途中で、道がわからなくなっちゃって…」彼女の声は小さく、少し恥ずかしそうに話す。


「お兄ちゃん?学校に通っているの?」とセリカが尋ねると、少女はこくりと頷いた。「うん、でも道に迷っちゃったの…」


「学校はすぐそこよ。一緒に行きましょう。」セリカはにこやかに答えて、少女の手をそっと握った。少女は、頼もしそうにセリカを見上げ、再び頷いた。


二人で並んで歩くうちに、少女は少しずつ緊張をほぐし、兄や家のことを嬉しそうに話し始めた。兄はとても優しくて、いつも自分を守ってくれる大好きなお兄ちゃんだという。セリカはその話に耳を傾け、微笑ましい気持ちになった。


やがて学校の門が見えてきた。生徒たちがぞろぞろと校舎から出てきているところで、セリカは少女の兄を見つけやすいよう、少し離れて待つことにした。


その時、少女が目を輝かせながら手を振り、笑顔で「お兄ちゃん!」と大きな声を上げた。目の前に現れたのは、数日前にセリカと喧嘩になった少年、カイルだった。彼もまた、妹が無事に戻ってきたことに気づき、ホッとした表情で駆け寄ってきた。


カイルはセリカに気づくと一瞬驚いたように立ち止まったが、すぐに冷静さを取り戻して妹を抱き寄せた。その後、少し照れくさそうにセリカに視線を向け、小さな声で「…ありがとな」と言った。


セリカは微笑みながら、「大事なお兄さんに会えて良かったわね」と少女に言い、カイルにも向き直って「どういたしまして」と軽く返した。


妹の手を握ったまま、カイルは視線を逸らしつつも、ぽつりと続けた。「…その、あの時は悪かったよ。妹のことを心配してて、少し…感情的になったんだ。」


その素直な謝罪にセリカは思わず微笑み、「気にしないで。私も少し言い過ぎたかもしれないし」と答えた。その柔らかな言葉に、カイルも少し笑みを浮かべた。


「これからは仲良くしましょうね。」とセリカが言うと、カイルは頷き、「ああ、もう喧嘩はしないよ」と応じた。


ルナがその様子を見て嬉しそうに、「仲良しになった!」と笑顔で喜び、兄とセリカの手をそれぞれ握って、ぴょんぴょんと跳ね回った。そんな微笑ましい光景に、セリカもカイルもつい笑みを浮かべる。


こうして、思いがけずセリカとカイルの間には友情が生まれ、二人は少しずつ心を通わせるようになったのだった。


「しかし、お前、本当にすごいな!」とカイルが感心したように言った。


セリカは驚いて彼を見返す。「え?何がすごいの?」


カイルは小さく笑いながら続けた。「だって、お前、妹より一つ年上だけなのに、こんなにしっかりしてるじゃないか。うちの妹なんて、まだこうだぜ」と、カイルは妹を指差した。


セリカの目線の先には、幼い妹が少し照れながらも甘えるようにカイルにしがみついている姿があった。その姿を見て、セリカの心にふと何かがよぎる。『あ…これが実際の3、4歳の姿なんだ…』


彼女は自分の年齢と重ねて、改めて自身の境遇を考えた。自分は、前世の記憶を持つ転生者。幼い見た目ながらも、その内には前世で培った知識や経験が宿っている。そんな自分と、純粋で無邪気なカイルの妹を見比べて、思わず微笑みが浮かんだ。


「そうか、私は少しばかり特別なのかもしれないわね」と小さく呟き、カイルと妹の関係を温かい眼差しで見つめるセリカだった。


「私は、兄弟がいないから、自然としっかりしてきたのかもね…」セリカは少し照れくさそうに、適当にごまかして言った。


カイルは納得したようにうなずき、「なるほどな、それもあるかもな!妹がいると、どうしても振り回されるからな」と笑いながら答えた。


セリカは、心の中で『まあ、実際は違うんだけど…』と思いながらも、何気ない会話を楽しんでいた。



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