数日後、セリカは放課後にカイルと話をする機会を得た。和解してからというもの、彼とは何でも話せる関係になりつつあった。
「ねえ、カイル。この学校に頻繁に来る貴族なんている?」と、セリカは何気なく尋ねた。
カイルは少し驚いた様子で、言葉を選ぶように答えた。「ああ、確かにひとりだけ見かけるな。名前はよく覚えてないけど、あの男、よく事務所に出入りしてる。こんな平民の学校に貴族が顔を出すなんて普通じゃないから、気にはなってたんだ。」
「ふうん…それって、どんな人?」セリカはさらに興味を引かれた。
カイルは少し考えてから、彼の姿を思い出すようにして言った。「年齢は中年くらいで、ひげがあって、いつも偉そうな感じのやつだよ。あんな学校に出入りする貴族なんて、俺の知る限りじゃあいつだけだ。」
「ありがとう、カイル。すごく助かるわ。」セリカはにっこり微笑んで彼に礼を言った。カイルの情報は、セリカが抱いていた疑念を確信へと変えるきっかけとなった。
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翌日、セリカはその貴族を自分の目で確かめるため、放課後に事務所の周りで様子を伺った。そして、事務所から出てくるその貴族を見かけた瞬間、彼が誰であるかを思い出した。確かに、予算監査官の「ウォーロック男爵」だった。
ウォーロック男爵が学校を立ち去った後、セリカはすぐに事務所へと向かった。事務所に入ると、そこには髭面の強面な事務員が座っていた。
セリカは即座に「さっきの貴族は誰?」と尋ねた。
事務員はぶっきらぼうな態度で答える。「ここは子供には用のない場所だ。お前が知る必要はない。」
しかし、セリカは引き下がらず、冷静に「聞かれたことに答えて!」と詰め寄った。
事務員はしぶしぶ答え、「ウォーロック男爵様だ」と告げる。
セリカはすかさず問い詰めた。「ウォーロック男爵は予算監査官のはず。年度末でもないのに学校を出入りするなんて、なんの用があるのかしら?」
事務員は困ったように視線を逸らし、「子供は知らなくていいことだ」と返すだけだった。しかし、セリカは机の上に置かれた帳簿に目を留める。
「その帳簿を開示しなさい」とセリカが要求すると、事務員は慌てて帳簿を引き出しにしまおうとする。
「セリカ・ディオール公爵令嬢の名のもとに、帳簿の開示を求めます。」セリカは毅然とした態度で名乗り出た。
事務員は驚きながらも、「本当に公爵令嬢か?」と疑問の色を浮かべるが、やがて教師を連れて確認に行くことに。その隙にセリカは引き出しから帳簿を取り出し、中身を確認し始めた。
帳簿には不自然な支出の記録がいくつもあり、予算がどう考えても学校運営には使われていないことが明白だった。セリカは怒りに震え、帳簿を手に事務員の帰りを待つ。
しばらくして教師を伴って戻ってきた事務員は、教師から「間違いなくセリカお嬢様です」と確認を受けて、すっかり顔色を変えた。
セリカは冷たい視線で事務員を見つめ、「貴様、ウォーロックとグルだな。帳簿を改ざんしたのはお前だな!」と一喝した。
事務員は青ざめ、口を震わせながら「お許しください、私は平民で、貴族様に逆らえませんでした…」と弁明する。
「それなら、私に上申すべきだったでしょう。金をもらって協力したのでは?」とセリカは冷徹に問い詰めた。
事務員は観念したように小さく頷いた。セリカはその様子にさらに苛立ち、「貴様は首だ!貴様が受け取った金は公金よ。返金できなければ、公金横領で告発する」と宣告した。
事務員は完全に恐怖に打ちひしがれ、言い訳する間もなくその場を去った。こうしてセリカは学校で行われていた不正を暴き、ウォーロック男爵の影響力を取り除くための大きな一歩を踏み出した。