第七章:ウォーロック男爵への弾劾
セリカはウォーロック男爵をディオール領の邸に呼び出し、厳しい表情で彼の到着を待っていた。彼女は意図的に平民の服装で現れ、まさに学校の現場から帰ってきたような装いで迎えた。やがて、ウォーロック男爵が重々しい足取りで部屋に入ってくる。
「お、お嬢様、そのお姿は…?」と、ウォーロック男爵は目を見張り、戸惑いを隠せない様子で尋ねた。
セリカは冷静に応えた。「実際に学校に通わなければ見えてこないこともあると思い、最近、平民の子供たちと一緒に学校に通っておりますの。」
ウォーロック男爵は一瞬驚いたが、すぐに無理に微笑んで答えた。「そ、それはご立派なお考えで。さすがはディオール家のご令嬢でございます。それで、なにか成果はございましたか?」
セリカは、目の奥に冷たい怒りを込めながら応えた。「ええ、あなたが公金を横領していたという事実がわかりました。」
男爵は一瞬顔色を失いかけたが、すぐに取り繕って反論を試みる。「お、お嬢様、なんの証拠があってそのような嫌疑をかけられるのですか?私がそんなことをするわけがない。」
セリカは静かに一冊の帳簿を机に置き、彼の目をしっかりと見据えた。「証拠なら、ここにあるわ。帳簿も抑えているし、あなたの手下である事務員も自白しています。」
ウォーロック男爵は、明らかに動揺し、しどろもどろになりながら、「そ、そんな…証拠だと?しかし、たかが平民のためにあれほどの予算を割くなど間違っています!貴族は貴族であり、平民などに無駄な支出をする価値などないのです!」と声を荒らげた。
セリカは男爵の発言に目を細め、一瞬の静寂の後に冷静に怒りを込めた声で言い放った。「ふざけるな。お前のような腐った考えの貴族がいるからこそ、私たちは平民から人材を求めなければならなくなっているのだ。その上、平民たちの教育のための公金を使い込むなど、どんな言い訳ができる?」
ウォーロック男爵は言い返す言葉を失い、唇を噛みしめた。しかし、最後の抵抗として、「お嬢様、それは貴族としての立場を理解しておりません。平民ごときに施しを与えるための資金など、他に有効活用すべきではないでしょうか」と、必死に正当化を図った。
セリカは冷徹に彼を見据え、毅然とした声で言った。「お前のような者に貴族としての資格はない。このような教育の場で不正を働き、平民を見下し、己の利益のみを追求する者は、私の領地に必要ない。よって、お前は学校の役員から外す。そして、それだけでは足りない。公職からも永久追放とする。」
その言葉を聞いたウォーロック男爵の顔は青ざめ、言葉を失った。彼の立場が一瞬で消えていくことを悟り、怒りと絶望が入り混じった表情でセリカを見つめたが、セリカの決意を覆すことはできなかった。ウォーロック男爵は唇を噛みしめながら、最期の反論もせず、黙って頭を垂れるしかなかった。
「退廷しなさい。次に会うことがあれば、処罰はもっと厳しいものとなるでしょう。」
セリカの冷ややかな声が響き渡る中、ウォーロック男爵は一言も発することなく、重い足取りで部屋を後にした。その背中は、かつての傲慢さが失われ、ただの無力な人間としての姿が残っていた。
セリカは彼が完全に去った後、深く息を吐き、手に残る怒りを少しずつ和らげながら、学校と領地の未来のために次なる行動を決意するのだった。
ドライドは静かに、しかし感慨深げに呟いた。
「なるほど、この件が広がれば、平民の登用に異を唱える者も、平民学校に反対することも、難しくなるだろう…激情に流されているかと思いきや、冷静に策を考えておられる。あの方は、私の予想より遥かに上を行かれる存在なのかもしれん。」
彼は一度深く息をつき、改めてセリカの背中を見つめた。まだ幼く見えるその姿に、彼女の内に秘められた強い意志と賢明さが感じられ、敬意が自然と芽生えていた。ドライドは今や、セリカがこの領地をどのように変えていくのか、その未来に大きな期待を抱きつつあった。