ゲオルグの校長就任は、学校にとって大きな転機となった。着任初日、セリカは校門で彼を迎えた。校舎に入るゲオルグを前に、集まった生徒や教師たちもざわめきが止まらない。今までの校長とは異なり、派手な挨拶もなく、ただ穏やかな微笑みを浮かべている彼の姿に、生徒も教師も好奇の視線を向けていた。
ゲオルグは平然とその視線を受け止め、一人ひとりに目を向けながら話しかけた。「皆さん、はじめまして。私はゲオルグ・ルートヴィク・フォン・トラップです。これから校長として、皆さんと共に学校を作り上げていきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。」その柔らかくも真摯な声に、集まった者たちの緊張が少しずつ解けていくのをセリカは感じた。
校長室に案内されたゲオルグは、早速セリカと学校の現状や課題について話し合った。事務所に溜まった書類や、まだ改善が必要な運営面についても詳細に目を通し、「ここまでの運営を支えてくださった方々には、頭が下がります」と静かに敬意を示した。セリカは、その姿に改めて彼の誠実さを感じ取り、この人になら自分の理想を託せると確信する。
数日後、早速彼の影響が学校に広がり始める。ゲオルグは教師たちに「生徒たちの学びを第一に考えること」を提言し、教育現場での生徒との向き合い方について改めて議論する場を設けた。会議の中で彼は一人ひとりの教師の意見に真剣に耳を傾け、平等な教育を実現するための具体的な方策を共に考え始めた。これまで、上から指示を受けるだけだった教師たちも、彼の姿勢に感化され、自らの考えを積極的に発言するようになる。
また、平等を重んじる彼の方針は、生徒たちにも自然と伝わっていった。彼は毎朝、校門の前に立ち、生徒たちを見送ったり、時には個別に話しかけたりすることを欠かさなかった。ある日、彼が気さくに話しかけた平民の生徒は驚きのあまり言葉を失いながらも、やがて顔を輝かせ、笑顔で返事を返していた。そんな小さな交流が積み重なる中で、生徒たちは彼を尊敬し信頼するようになり、次第に「自分たちも努力してこの学校をより良くしていきたい」と意識が変わっていった。
一方で、最初は不安や反発を抱いていた一部の教師たちも、ゲオルグの誠実な人柄に触れ、彼に対する信頼を深めていくようになった。彼は決して一方的に指導するのではなく、教師たちが抱える問題や不安に寄り添い、解決策を共に模索する姿勢を見せた。特に、マリアと共に進めた指導改善の会議では、一部の教師が「自分たちももっと学びたい」と素直に口にする場面も見られた。これまで自己研鑽を怠っていた教師たちも、ゲオルグの姿勢を見て、自らの指導力向上を目指すようになったのだ。
そんな中、セリカも彼に対しての信頼を一層深めていた。ある日、彼女は校長室を訪れ、少し照れくさそうに彼に礼を言った。「ゲオルグさん、あなたのおかげで学校が変わり始めているわ。みんなが、少しずつだけど、この学校を良くしようと前向きになっているのがわかるの。」
ゲオルグは微笑んで答えた。「それは、セリカお嬢様の信念と尽力があったからこそです。私もまだまだ未熟者ですが、共に歩んでいけることを誇りに思います。」
その言葉に、セリカは小さく頷き、彼の言葉の重みを噛みしめた。学校はまだ発展の途上にあるが、ゲオルグという強力な協力者を得たことで、彼女の理想である「身分に関わらず学べる場」の実現が、少しずつ現実のものになりつつあると実感する。
その後、ゲオルグの提案により、新たな試みも始まった。教師たちに対して定期的に研修を行うと同時に、教師や生徒が意見を交換しやすい「オープンミーティング」の場が設けられるようになったのだ。この取り組みによって、学校内の風通しがさらに良くなり、生徒や教師が自由に意見を言い合える雰囲気が生まれた。また、学校運営についての改善点が早期に共有され、全員で取り組む体制が整い、学校全体が活気づいていった。
こうしてゲオルグの校長就任から数ヶ月が過ぎ、学校の風景は以前とは大きく変わった。セリカは日々の授業や運営に対する姿勢が改善されていくのを見て、自らの夢が一歩ずつ叶いつつあることを実感する。