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第43話 揺るがない理想と理想論で終わらない行動

夜も更けたある晩、セリカは書斎の椅子に腰かけ、心の内に深く根ざした決意を噛みしめていた。サエの無力な姿が、まだ鮮明に脳裏に焼き付いている。何も悪くない子供が、自分の家ですら安らぎを感じられない境遇に置かれていることに、彼女は強い憤りを感じていた。サエのような子供たちが、どれほど多く存在するのだろうかと考えると、胸が締め付けられる思いがする。


「一人じゃない。サエのように、助けを求められない子供たちがきっと他にもいるはず…」彼女はつぶやくと、拳を固く握りしめ、心の中で新たな決意を固めた。


その夜、セリカはまず家族に話をすることを決めた。朝日が昇ると同時に、彼女は父親であるディオール公爵に面会を願い出た。彼は少し驚いた表情を見せたものの、セリカの真剣な眼差しに気づくと、すぐに話を聞く体勢を整えた。


「お父様、私にはお願いがあります。」セリカはまっすぐに父を見つめ、静かに、しかし確固たる口調で語り始めた。「サエのように、辛い環境で生きている子供たちを救いたいのです。たとえ法や立場が障害になろうとも、私はあきらめたくありません。」


ディオール公爵は、少し黙り込んでからセリカの表情をじっと見つめた。彼は娘の強い意志に胸を打たれつつも、その重みをしっかりと受け止めていた。


「セリカ…その思いは立派だ。だが、お前が考えていることは容易なことではない。法や制度には理由があるし、貴族の立場でそういった活動を行うことには、様々な問題が伴うだろう。」ディオール公爵の言葉は慎重で、彼の父としての愛情と同時に、現実に対する深い理解が込められていた。


しかし、セリカは一歩も引かず、さらに言葉を重ねた。「私はただ理想を語っているわけではありません。具体的な方法を考え、行動に移す覚悟があります。そして、家族として、何よりも公爵家として私を支えてくれると信じています。」


ディオール公爵はその言葉に一瞬驚いたようだが、やがて小さく笑みを浮かべ、深くうなずいた。「分かった。お前の決意が本物なら、私も全力で協力しよう。お前が正しいと思う道を進むのであれば、家族としてお前を支えることに異論はない。」


その言葉を聞いたセリカの顔に、光が灯ったように笑顔が広がった。そしてその足で、彼女はカトレアを呼び出し、今度は彼女に協力を求めることにした。


カトレアが部屋に入ると、セリカはすぐに彼女に向かって話しかけた。「カトレア、サエを助け出してくれたこと、心から感謝しているわ。だけど、私はあの子一人だけを助けて満足するつもりはないの。」


「お嬢様、まさか…」カトレアの表情には、一瞬驚きが浮かんだものの、すぐに理解した様子で続けた。「他の子供たちも、というわけですね?」


「ええ、そうよ。」セリカは力強くうなずいた。「サエのように、虐待や困難な状況にある子供たちを助け出し、彼らが安心して生活できる環境を提供したいの。私たちの力で、救いの手を差し伸べる方法を考えていきたいの。」


カトレアはセリカの目の奥に揺るぎない決意を見て、静かに微笑んだ。「お嬢様なら、そうおっしゃると思っておりました。私も微力ながらお力になります。具体的な手立てを考え、計画を練りましょう。」


それから数日間、セリカとカトレアは毎日話し合いを重ね、具体的な救済方法を検討し始めた。まずはサエのような家庭環境で苦しんでいる子供たちの調査を進め、適切な支援が行える方法を確立することが第一歩だと考えた。また、孤児や身寄りのない子供たちを受け入れる施設を設立し、彼らが安心して学び、育っていける環境を提供する計画も立案に加えた。


セリカは屋敷の一室を使って、救済プロジェクトの拠点を設置することにした。そこにはカトレアや家族の協力のもと、物資や資金を集め、現場での支援活動を行う体制を整えていった。そしてセリカの周囲には、彼女の理念に共感する人々が少しずつ集まり始め、力強いサポートの輪が広がっていった。


数週間が経つと、早速セリカの元に他の子供たちの情報が寄せられ始めた。中には虐待されているケースもあれば、経済的な理由で十分な教育を受けられない子供たちもいた。その一つひとつに心を痛めながらも、セリカは彼らを救うための活動に励んだ。彼女は一人ひとりの子供の境遇に真剣に耳を傾け、必要な支援を迅速に行うように指示を出していった。


ある日、カトレアが報告書を手にセリカのもとに訪れ、言った。「お嬢様、現時点で支援の対象となる子供が十数名に達しています。この調子で進めば、私たちの活動はより広い範囲で影響を持つようになるでしょう。」


セリカはその報告に頷きながら、心の中でさらに決意を固めた。「この活動が、子供たちの未来を変える一助となるよう、絶対にあきらめないわ。」


セリカの挑戦は、まだ始まったばかりだった。彼女の情熱と行動力が結びつき、救済活動が徐々に形を成し始める。その道のりは決して平坦ではないが、セリカには確かな信念と強い意志があった。


「どれだけ大きな困難が待ち受けていようとも、私は全ての子供たちを救い出す。そう決めたのだから。」セリカは改めて心の中で誓いを立て、未来に向かって歩み始めた。



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