セリカに連れられて公爵邸に保護されたサエは、これまでの生活が嘘のように感じられる新しい環境で迎えられた。豪奢な造りの屋敷、広々とした部屋、きちんと整えられた食事。彼女にとっては見慣れないものばかりで、最初の夜は緊張と驚きでほとんど眠れなかった。翌朝、清々しい日の光に包まれながらも、サエの心には不安と戸惑いが入り混じっていた。
彼女が部屋の外に出ると、廊下の先にセリカが立っていた。セリカは明るく微笑んでサエに声をかける。「おはよう、サエ。よく眠れた?」
サエは少し戸惑いながら、「ええ、ありがとうございます」と答えたが、その顔には緊張の色が浮かんでいた。そんな彼女の様子を見て、セリカは優しく手を取って、少しずつ歩きながら話しかけた。
「ここがあなたの新しい家だと思って、安心してね。誰もあなたを傷つけたりしないから」
その言葉を聞いて、サエはほっと息をついたが、それでもまだ完全に気持ちが晴れることはなかった。しばらく歩いた後、サエはふと尋ねた。「セリカ…、あなたはどうして私にこんなに親切にしてくれるんですか?」
セリカはその問いに少し驚いた表情を浮かべたが、すぐに頷き、静かに答えた。「あなたには、とてつもない才能がある。あの本を一生懸命読んでいる姿を見て、私も同じように本を愛する者として、応援したいと思ったの。それに…」セリカは少し恥ずかしそうに微笑んだ。「私も一度、あなたのように自分の居場所を見つけられない気持ちを経験したことがあるから」
セリカの言葉に、サエは少しずつ心を開き始め、彼女のことをもっと知りたいと思った。そして、何気なく質問を重ねているうちに、セリカがただの友人や同級生ではなく、公爵家の令嬢であることを知るに至った。
「えっ…あなたが、公爵令嬢様だったなんて…」サエは目を見開き、思わず言葉を失ってしまった。
「そう、私はディオール公爵の娘なの。だからこの屋敷も私たちの家なのよ」と、セリカは気軽に笑いながら言った。サエはその言葉に驚きつつも、セリカが自分と同じ一人の少女であり、身分にかかわらず彼女を尊重してくれていることに心から感謝した。
サエが少し驚きを乗り越えたところで、セリカは新しい生活について話し始めた。「サエ、あなたには本当に才能があると思う。だから、この家でしっかりと勉強して、あなたの知識をさらに深めていってほしい。私ができる限り、あなたの学びを支えていくつもりだから」
その言葉にサエは静かに頷き、涙がこぼれ落ちそうになるのを必死でこらえた。今まで誰にも頼れず、自分の力だけで生きてきた彼女にとって、セリカの支えは何よりも大きな安心を与えてくれた。
その後、セリカはサエのために特別な教育を整えた。まずは読み書きの基礎を強化し、さらに専門的な知識を学ぶための環境を提供した。屋敷には豊富な書物がそろっており、サエはその本たちに囲まれて、次々と新しい知識を吸収していった。彼女が難しい内容にも興味を持ち、次々に質問を重ねる様子を見た家庭教師たちは、サエの才気に感嘆し、その教育にますます熱を入れた。
サエは、今までの生活では想像もできなかったような専門的な指導を受けることで、日に日に才能が花開いていった。特に彼女が興味を示したのは、科学や数学の分野で、難解な問題にも臆することなく挑んでいった。彼女の吸収力と探究心は並外れており、時には教師たちもサエの鋭い質問に答えるのに苦労するほどだった。
ある日の夕方、セリカはサエが一心に本に向かっている姿を見て、心の中で微笑んだ。