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第45話 セリカとサエの突然の不在

ある日、ディオール領の貴族でありながら、平民として学校に通っていたセリカとサエ、さらにジーンとカトリーヌ(本名カトレア)が、突如学校から姿を消した。誰も何も知らされておらず、生徒たちは困惑し、動揺していた。毎日必ず見かけていた彼女たちが、何の前触れもなく学校に現れなくなったのだ。


特にセリカと親しかったエレンやカイルをはじめとする友人たちは、いったい何があったのかと不安に駆られていた。教室にセリカの姿がないだけで、彼らは妙に落ち着かず、心がざわついていた。「まさか、何か危険なことがあったのではないか?」と考えると、気持ちはさらに沈んでいく。


その日、授業が始まっても生徒たちは集中できず、教師が声をかけても、何となくぼんやりとしている。いつもは活発なエレンですら、心ここにあらずといった様子で教科書を眺めていた。だが、彼女はただ眺めているだけで、内容はほとんど頭に入っていない。普段であれば、授業中に笑い声が飛び交うことも多い教室は、その日ばかりは静寂に包まれていた。


そんな中、授業が一旦終わり、休憩時間になると、エレンは我慢できなくなり、カイルに話しかけた。「ねえ、カイル。セリカやサエたち、どうしちゃったのかしら?何も言わずにいなくなるなんて、変だと思わない?」カイルも同じ疑問を抱いていたのか、少し眉をひそめてうなずいた。「ああ、確かにな。何か理由があったとしても、せめて知らせてくれればいいのにな。」


二人は思い切って職員室に向かい、事情を聞こうとしたが、教師たちも何も知らされていないようだった。彼らもまた、セリカたちの急な欠席に戸惑っている様子だった。エレンとカイルが戻ってくると、他の生徒たちも彼らの顔を見て一斉に問いかける。「どうだった?先生たちは何か知ってるの?」と、口々に訊ねてきた。エレンは苦笑いを浮かべて首を振った。「先生たちも何も知らないみたい。どうやら、私たちと同じく驚いてる様子だったわ。」


生徒たちはさらに動揺し、不安が募るばかりだった。しかし、彼らの不安を一瞬にして払拭するように、マリア先生が教室にやってきた。普段は穏やかで笑顔を絶やさないマリア先生の表情も、どこか厳しさが感じられる。そして、彼女は教壇に立ち、生徒たちに静かに語りかけた。


「皆さん、どうやら心配しているようですね。確かにセリカさんやサエさんが急にいなくなったことには驚きましたが、彼女たちは元気で過ごしていると信じています。大丈夫ですから、安心してください。」


マリア先生の温かい言葉が、少しだけ生徒たちの心を和らげた。しかし、それでも彼らの不安が完全に消えたわけではなかった。エレンが小さな声で言った。「でも先生、何も知らせずに急にいなくなるなんて、やっぱり変じゃないですか?」その問いに、マリア先生は一瞬言葉を詰まらせたが、すぐに微笑んで答えた。「そうですね。でも、彼女たちが皆さんのために戻ってくる日がきっと来ますよ。その日まで、どうか元気で待っていてくださいね。」


それでもエレンやカイルをはじめとするクラスメイトたちは、心の中に小さな不安の種を抱えたままだった。それからもセリカやサエの姿が見えない日が続き、噂はますます広がっていった。



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