翌日、セリカはいつもと違う様子で学校へと向かっていた。彼女の隣にはサエが控え、後ろにはジーンとカトリーヌ——いや、護衛騎士としての姿を取り戻したカトレアが騎士装束で歩いている。セリカは自らの素性を明かし、友人たちや教師たちに本来の自分を伝える日を決意したのだ。そのため、この日は普段の平民の装いではなく、堂々とした貴族令嬢のドレスを身にまとっていた。
校門をくぐると、セリカの姿に気づいた生徒たちが驚きの声を上げる。「え?セリカ?」「まさか、あんな豪華な服を着ているなんて…」と、目を丸くして見つめる生徒たちの間を、彼女はゆっくりと歩いて教室に向かう。セリカの周りには自然と人が集まり、彼女が教室の中に入ると、クラスメートたちの注目が一気に集中した。
教壇に立つと、セリカは深呼吸し、生徒たちに向かって静かに口を開いた。
「みなさん、驚かせてしまってごめんなさい。私はずっと皆と一緒に平民の子として学んできましたが、本当は…ディオール公爵家の娘、セリカ・ディオールです。」
教室は一瞬、静まり返った。何が起きているのか理解できない様子で、生徒たちはセリカの言葉に目を見開き、しばしの間、誰もが言葉を失っていた。そして、少しずつ驚きの声が広がり始める。
「セリカが…公爵令嬢…?」
「本当に?ずっと私たちと一緒に学んでいたのに…」
「なぜ、平民のふりを?」
セリカは、友人たちが抱く疑問に答えるために続けた。
「私は、ディオール領の未来を作るために、平民の学校をゼロから立ち上げました。この学校がどのように運営され、どのような教育がなされるべきか、自分の目で確かめたかったのです。そして、皆さんと同じ目線で学ぶことで、この場所がどれほど素晴らしい場所かを実感することができました。」
セリカの真摯な言葉に、生徒たちの表情が次第に理解と尊敬の色を帯びていく。彼女がただの特権階級の娘として学校を作ったのではなく、実際に生徒たちと共に学び、感じ、考えた上で行動していたことが伝わったのだ。
特に親しい友人であったエレンとカイルは、最初は驚きを隠せなかったが、次第に納得の表情を浮かべた。エレンが小さな声で「そうだったんだ…だからセリカはいつも私たちに寄り添ってくれていたんだね」と呟くと、カイルも「そう考えると、すごいよな。俺たちと一緒に学びながら、将来のことを真剣に考えてたんだ」と感心した様子で頷いた。
セリカは、友人たちと目が合うと微笑み、再び教室全体に視線を向けて話を続ける。
「これからも、私はこの学校を見守り続けます。校長のゲオルグ先生、そしてマリア先生たちがいる限り、この学校は安心ですし、皆さんがここで学んでいくことが、ディオール領の未来に繋がっていくと信じています。そして、皆さんが成長し、領地の未来を支えてくれることを心から願っています。」
セリカの言葉に、生徒たちは次第に拍手を送り始めた。その拍手は最初は小さかったが、徐々に大きくなり、教室全体に響き渡るようになった。彼女の行動と信念に感謝し、共感を抱く生徒たちの思いが、拍手の中に表れていた。
その後、セリカはサエを傍らに呼び、彼女の紹介を行った。「皆さん、こちらはサエ。私と同じように、皆さんと共に学ぶ仲間です。サエは素晴らしい才能を持っています。そして、彼女の才能を存分に発揮できるよう、私は彼女を全力で支えたいと思っています。」サエは少し恥ずかしそうにしながらも、セリカの隣で深く一礼した。
生徒たちは、サエにも優しい目を向け、次第に打ち解けていった。そして、彼女が今後どのように成長していくのかを期待する声も上がるようになった。セリカの存在があったからこそ、サエもまた新しい仲間として迎え入れられたのだ。