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第48話 サエの新生活



セリカの計らいにより、サエはディオール公爵家に引き取られ、保護されることとなった。元々は一人で学校に通い、家に帰るといつも辛い境遇に耐えていたサエにとって、初めて経験する「家族」のような暖かい環境だった。ディオール公爵家での生活は、これまでの生活とは全く異なり、セリカを中心にした公爵家の人々の愛情に包まれていた。


公爵邸に到着した初日、サエは戸惑いを隠せなかった。玄関に入るとすぐに、優雅で立派な家具が並び、煌びやかな装飾が施された広々としたホールが目の前に広がっていた。初めて足を踏み入れたこの場所は、まるで別世界のようであり、自分が本当にここにいてもいいのか不安に駆られた。しかし、迎え入れてくれたメイドたちや執事たちは、皆優しく微笑み、彼女が安心できるよう心を尽くして接してくれた。


その日、サエは広い自室に案内された。大きなベッドにはふかふかの毛布がかけられており、窓からは美しい庭園が見渡せる。彼女は一瞬、目の前の光景が夢ではないかと疑った。しかし、セリカがそばで「ここが今日からあなたの部屋よ。安心して過ごしてね」と声をかけてくれたことで、ようやく現実なのだと感じた。


翌朝、サエは公爵家の朝食に参加することになった。豪華な食器が並ぶ食卓に座るのは初めてであり、彼女は少し緊張していた。しかし、セリカが隣で笑顔を浮かべながら一緒に話しかけてくれたことで、少しずつ心がほぐれていった。サエが食事に手を伸ばすと、ふんわりとしたパンや新鮮な果物、香り高いスープが彼女の前に並び、これまで食べたことのない美味しさに驚きを隠せなかった。ディオール公爵家の朝食は、彼女にとって毎日が新しい発見だった。


また、公爵家に住むようになってからは、学問の面でも驚きの連続だった。セリカはサエの才能を見抜き、彼女がその才能をさらに伸ばせるよう、個別の指導を受けさせる手配をしていた。サエは専門の家庭教師から読み書きの再確認から始まり、貴族が学ぶべき知識である歴史や地理、さらに科学や数学といった幅広い科目を学び始めることとなった。サエは最初こそ不安そうだったが、セリカがそばにいて励ましてくれることで、彼女は少しずつ自信を取り戻し、勉学に意欲を見せるようになった。


授業が始まってから、サエの才能は次々と明らかになっていった。最初に家庭教師が驚いたのは、彼女の圧倒的な記憶力と理解力だった。教科書を一度読むだけで内容を把握し、難しい専門用語もすぐに覚えた。家庭教師はその才能に舌を巻き、セリカに「彼女は文才だけでなく、科学や数学にも非凡な才能を持っています。まさに稀代の逸材です」と報告した。これにより、セリカはさらにサエに適した教育プランを考案し、彼女が持つ可能性を最大限に引き出すためのサポートを惜しみなく行った。


ただ、サエは公爵家の生活に慣れるのに少し時間がかかった。普段からメイドたちが身の回りの世話をしてくれることに戸惑い、「自分でやります」と申し出ることもしばしばあった。セリカが「ここでは遠慮しないでいいのよ」と優しく言い聞かせると、少しずつ受け入れられるようにはなったものの、それでもサエは公爵家の人々への感謝を忘れず、自分なりに出来ることを探していた。


ある日、セリカはサエが本を読みふけっている姿を見かけた。そこにあったのは、通常の児童向けの本ではなく、科学の専門書だった。セリカが「その本、難しくない?」と尋ねると、サエは「少し難しいけど、分かるところだけでも面白いの」と答えた。その無邪気な笑顔を見て、セリカは彼女の知的好奇心が純粋であることを感じ、彼女の才能を支えるためにどこまでも応援したいという思いを強くした。


それからというもの、サエは公爵家の環境でどんどん成長していった。彼女が通う勉強会では、年上の生徒たちとも対等に意見を交わすようになり、その知識と発言の深さに周囲が驚くこともしばしばあった。セリカもまた、サエが自分の期待以上に成長し、知識を吸収していく姿に目を見張り、彼女を見守り続けることに喜びを感じていた。


セリカはある時、ドライドに「サエの才能には、本当に驚かされるわ。彼女をこのまま平民として埋もれさせてしまったら、国にとっても大きな損失だった」と話しかけた。ドライドも「はい、あのような逸材を育てることができるのは、お嬢様の慧眼によるものでしょう」と答え、セリカの判断を称賛した。


こうして、サエの新生活が始まった。彼女は公爵家での日々を通じて、学問だけでなく、自らの意志で未来を切り開く勇気も学び始めていた。



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