サエがディオール公爵家で新たな生活を始め、彼女の才能が次々と開花していく様子を見届ける中で、セリカもまた、心の中に新たな決意を抱き始めていた。学校での改革が順調に進み、ゲオルグ校長やマリアたちによって安定した運営がなされている今、セリカはかねてからの夢である「すべての子供たちが平等に学べる環境」を領地全体に広げるべく、さらなる計画を立てることを決意していた。
ある日の夕方、セリカは公爵家の庭で静かに物思いにふけっていた。風に揺れる草花や鳥のさえずりを耳にしながら、彼女は過去の出来事やこれまでの努力を振り返っていた。サエを救い出し、彼女の才能を育む場を提供できたことは、セリカにとって大きな達成感を与えてくれた。しかし、それ以上に、サエのように才能や可能性を持ちながらも苦しい生活を送る子供たちが、この領地にはまだ多くいるかもしれないと考えると、胸が痛んだ。
「サエだけを救っただけじゃ、全然足りない…もっと多くの子供たちに、学びの機会を届けるためには…」
そんな考えにふけっていると、背後からドライドの静かな声が聞こえた。「お嬢様、何かお考えごとでしょうか?」
セリカは驚いたが、ドライドの姿を見て微笑み、彼にこれからの抱負を打ち明けることにした。「ドライド、私はディオール領全体で子供たちが学べる場所を作りたいの。今の学校のように、身分に関係なく学べる学校をもっと増やしていきたいのよ。」
ドライドは真剣に耳を傾け、セリカの意志を感じ取った。「お嬢様、その計画は確かに素晴らしいです。しかし、現実には多くの課題があるでしょう。予算の確保や、各地での学校の建設、さらに優れた教師の採用も必要です。簡単な道ではありません。」
セリカは一度うなずいたが、彼の言葉に揺るがず力強く答えた。「わかっているわ、ドライド。それでも、私はやらなきゃいけないの。サエを救ったように、ディオール領のすべての子供たちに学ぶ権利を与えたい。これは私が貴族として果たすべき使命なのよ。」
ドライドはセリカの決意に感銘を受け、彼女を全力で支援することを改めて誓った。「お嬢様の志を無駄にしないよう、私も全力を尽くします。まずは、領地の中でもアクセスが難しい村から順に学校設立の計画を進めましょう。」
セリカは嬉しそうにうなずき、彼の提案を受け入れた。そして、これからの準備に取り掛かるべく、さっそく資金の調達方法や教師の募集に関する計画を練り始めた。彼女は自分が学び、経験してきたことを踏まえ、必要なものをリストにまとめ、未来に向けた道筋を明確にしていった。
数日後、セリカは公爵家で小さな会合を開き、ゲオルグ校長、マリア、そしてサエも招待し、彼女の計画を打ち明けた。セリカの話を聞いたゲオルグ校長は、目を輝かせながらうなずき、「お嬢様の考えに心から賛同いたします。教育の力は、必ずこの領地を豊かにするでしょう」と言った。
マリアもまた感動し、セリカに向かって微笑んだ。「私もお嬢様の思いに応えられるよう、これからも全力でサポートいたします。新たに設立される学校のカリキュラムや教師の教育に関して、私からも協力させてください。」
セリカは感謝の気持ちを込めて彼らに頭を下げ、「皆さんの協力があってこそ、私はここまで来ることができたの。これからも、私のそばで一緒に力を貸してほしい」と頼んだ。そして、サエに向かっても優しく微笑みかけた。「サエ、あなたの知識と経験も、これからの子供たちにとって貴重なものになるわ。もし、あなたが望むなら、新しい学校の子供たちにも、あなたの学びの姿勢を伝えてほしいの。」
サエは驚いた様子で目を丸くし、少し戸惑った表情を浮かべたが、やがて力強くうなずいた。「はい、セリカ様。私も…私と同じように学びたいと思っている子供たちの力になりたいです。」
こうして、セリカを中心としたディオール公爵家の一同は、未来のために新たな一歩を踏み出すことを誓い合った。セリカの目指す「すべての子供が学べる世界」を実現するための道は、まだ始まったばかりであり、困難も多いだろう。それでも、彼女には揺るぎない信念があった。