翌日、セリカは再びロワンスを自邸に呼び出した。彼が現れたとき、セリカは穏やかな表情を浮かべていたが、内心では冷静な決意が燃えていた。
「お嬢様、お呼びいただき光栄です。本日こそ、ぜひ融資契約を進めさせていただければと存じます」ロワンスはにやりと笑い、低金利と書かれた契約書をテーブルに広げた。
「ロワンスさん、昨日のお話をもう一度うかがいたいのですが、この契約書には少しばかり気になる点がありまして」とセリカは契約書を指さしながら言った。
「そうですか? では、お嬢様が気にされている部分をぜひ教えていただきたいですな」ロワンスは自信ありげに言ったが、セリカの表情が鋭さを増したことに気づき、わずかに不安がよぎった。
「はい、この部分です」セリカは、サエが指摘してくれた違約金の条項に指を置いた。「こちらに書かれている罰金について、詳しく説明していただけますか?」
ロワンスは顔を少し引きつらせながらも、すぐに笑顔を作り、「これはあくまで通常の契約でして、支払いが滞った場合の保険のようなものです」と答えた。
「ですが、罰金の額が極端に高額であるように感じます。それに、支払いができなくなった場合、当領地の資産にも手を伸ばすという記述が含まれていますね。これではまるで、借りた側が全財産を失うような契約です」
セリカの指摘に、ロワンスの表情はますます険しくなった。彼は小さく息をつき、「お嬢様は、やはり非常に聡明でいらっしゃる。しかし、こういった条項は商業取引の一環としてよく見られるものでして、特別なものではありません」と返答したが、その声には焦りが混じっていた。
セリカは微笑みながらも、鋭い視線を崩さず、「ディオール領は、領民の皆様の信頼に支えられて運営しています。私たちが負担するのは、その未来に向けた責任です。詐欺のような契約で、領地を脅かすようなことは決して許しません」と告げた。
ロワンスは一瞬の沈黙を経て、険しい顔を見せると、「お嬢様、私をそのような目で見るとは、悲しい限りです」と言い、契約書を片手に立ち上がった。「私どもは善意でお嬢様を支援しようとしていただけです。もしもこの条件にご不満があるのであれば、他の方法で—」
その言葉が終わる前に、補佐官のドライドが静かに立ち上がり、ロワンスの前に立ちはだかった。「お待ちください、ロワンス殿。お嬢様はこの件を慎重に判断されました。あなたの契約条件が、誠実なものであるとは到底思えません」
ロワンスは目を鋭くし、ドライドに挑むような視線を投げかけた。「これは誤解です。私の目的は純粋に、ディオール領の発展をお手伝いすることです」
「ならば、透明で公平な契約に変更していただきたい」とセリカが言葉を続ける。
ロワンスは言葉に詰まり、次第に態度を軟化させるかに見えたが、内心では怒りと焦りが渦巻いているのが見て取れた。「…わかりました。今回のご契約は白紙に戻させていただきましょう」と、ロワンスは無理やり笑顔を作って言ったが、その目には怒りが宿っていた。
「ご理解いただけて、何よりです」とセリカは静かに言葉を返した。
ロワンスは足早に部屋を後にしたが、セリカもドライドも、彼が再び何か問題を引き起こすのではないかと警戒を緩めなかった。