目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

第88話 策謀の舞台

セリカ・ディオールは、ディオール領の主として周囲から一目置かれる存在だった。しかし、そんな彼女にも決して予測しなかった出来事が訪れる日がやってきた。ランディ王子、リュミエール王国の第5王子との対面の機会が急に持たれることになったのだ。


「ランディ王子が、ディオール領にいらっしゃる…?」


セリカは驚きを隠せなかった。ランディ王子が彼女の領地に関心を持っているという噂は、貴族たちの間でささやかれていたが、彼がここまで接近してくるとは思っていなかった。しかし、彼の影響力が徐々に領地に広がっていることは感じており、その助言がディオール領の発展に確かに貢献していたのも事実だった。


「ここまでお世話になっているのだから、直接お礼を申し上げるのが筋でしょう。」


そう自分に言い聞かせると、セリカは彼に会う準備を始めた。



---


ランディ王子が到着する日は、ディオール領の空気が一変していた。普段は落ち着いた領内も、王族を迎えるということもあり、緊張感に包まれていた。セリカは、彼を迎えるために居室に通されると、冷静さを保ちながらも内心では警戒を強めた。


やがて、扉が開かれ、ランディ王子が姿を現した。彼は予想通り洗練された身なりをしており、冷ややかな表情の中にも隠しきれない知性が輝いていた。周囲の人々に軽く頭を下げる姿には王族としての威厳と落ち着きが見え隠れしていたが、どこか計算された仕草が混じっているように感じられた。


「セリカ・ディオール様、お目にかかれて光栄です。」


ランディは淡々とした口調で挨拶を述べた。彼の冷静でありながらも柔らかい声が室内に響き、セリカも礼儀正しく彼に挨拶を返した。彼女は、その声や態度から、彼がすべてを見透かしているような不思議な感覚を覚えた。


「ランディ王子、お忙しい中、わざわざディオール領までお越しいただきありがとうございます。貴方の助言が、私たちの領地に大いに役立っていることは言うまでもありません。」


セリカの言葉に、ランディは控えめな笑みを浮かべた。その笑みには、まるで彼が自分の影響力を完全に理解していることを暗示しているかのような自信が漂っていた。


「それは何よりです、セリカ様。私はただ、貴方の繁栄と領地の発展を願っているだけです。」


彼の言葉は一見すると誠実だが、セリカにはその裏に隠された何かを感じ取っていた。彼がここに来た真の目的は、ただ彼女の発展を願うためだけではないことを、彼女は理解していたのだ。


「それにしても、セリカ様がこれほどの知恵と指導力をお持ちであるとは、宮廷でも評判です。幼いながらも、ディオール領を繁栄させるとは、並大抵の努力ではありません。」


ランディは、彼女を褒め称えつつも、その視線は鋭く彼女を見つめていた。その目には、ただ称賛しているだけではない冷静な観察者の目があった。セリカはその視線に一瞬たじろいだが、すぐに表情を整え、冷静に彼を見返した。


「過分なお褒めのお言葉、感謝いたします。しかし、私はまだ至らない点が多く、皆様の助けがあってこその結果です。」


セリカは謙虚な態度で返したが、その言葉には自分自身の能力への自負が隠されていた。ランディはその言葉に軽くうなずき、再び微笑を浮かべた。


「謙虚さもまた、貴方の強みですね。しかし、どうか自身の力を信じてください。私はディオール領がますます発展するための支援を惜しみません。」


彼のその言葉に、セリカは少しずつ彼への警戒心を解き始めていた。確かに彼は冷静で計算高い人物に違いないが、その言葉には少なくとも真摯な思いが感じられるようにも思えた。



---


会話が進むにつれ、セリカはランディ王子がいかに自分にとって価値のある存在であるかを理解し始めていた。彼の提案は的確で、彼の知識はディオール領の発展にとって確かに役立つものばかりだった。ランディの巧妙な策略は、あくまでも彼自身の影響力を増幅するために彼女に接触していることは明らかだったが、その方法は押しつけがましくなく、むしろ彼女自身が彼の支援を必要と感じるように仕向けられていた。


「ランディ王子、ここまでお力添えいただいて、誠に感謝しております。ですが、私には一つだけお尋ねしたいことがございます。」


セリカは決意を固め、ランディに向けて問いを投げかけた。


「あなたは、なぜここまでしてディオール領の発展にご助力くださるのですか?他の兄上たちのように、直接的な求婚ではなく、あくまで陰ながらの支援を選ばれた理由が気になります。」


ランディは一瞬驚いた表情を見せたが、すぐにその目に薄い笑みが浮かんだ。その笑みには、彼が全てを見透かしているかのような冷ややかさが含まれていた。


「それは、私のやり方が最も効率的だからです。セリカ様、私は貴方に私を必要と思っていただきたい。それが私にとって、最も望ましい形だからです。」


彼の言葉には計算と誠実さが入り混じっていた。その場で結論を押し付けるのではなく、あくまでも彼女が彼を選ぶように仕向けるその冷静な策略に、セリカは僅かに動揺した。しかし、その同時に彼が持つ冷静さと知性には、確かな信頼感も芽生え始めていた。



---


その日、セリカはランディ王子がただの野心家ではなく、冷静に彼女の発展を支えようとする影のような存在であることを痛感した。彼の言葉と態度からは誠実さと計算が絶妙に混ざり合っており、彼がディオール領にとって必要不可欠な存在であることを理解した。


セリカの中で、彼に対する信頼と警戒の狭間で揺れる気持ちが生まれた。ランディ王子が何を真に望んでいるのか、それを知るのはまだ少し先のことになるだろう。しかし、彼との出会いが今後のディオール領にとって大きな転機となることを、セリカは確信していた。






この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?