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第100話 再びディオール公爵夫妻の説得に挑むアコード王子



数日が過ぎ、アコード王子はディオール公爵夫妻への再度の面会を決意していた。初めての説得はうまくいかなかったが、それでも彼の気持ちは揺るがなかった。セリカとの再婚約が、王国全体にとっても、彼にとっても必要不可欠だと確信していたからだ。公爵夫妻の慎重な態度に対し、さらに誠実な態度と新たな説得材料をもって再挑戦することを決意していた。


「セリカのため、そして王国の未来のためにも、ここで諦めるわけにはいかない」


そう自分に言い聞かせ、アコード王子は二度目の面会のためにディオール領へと足を運んだ。今回は前回以上に彼の気持ちを伝えるため、単なる利害関係や未来への展望だけでなく、彼自身がセリカに対して感じている思いも言葉にする覚悟を決めていた。



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ディオール領に再び到着し、広大な庭園を歩くアコード王子を出迎えたのは、変わらずに品格と威厳を持ったディオール公爵夫妻だった。夫妻はアコード王子の再訪に多少驚いた表情を見せながらも、温かく彼を迎え入れた。


「アコード王子、再び私どもの領地にお越しくださり、ありがとうございます。何度も足を運んでいただき、恐縮しております」


ディオール公爵は静かな口調で礼を述べたが、その言葉には前回以上に慎重な姿勢が感じられた。公爵夫人もまた、同様に厳かな表情で王子の話を待っていた。夫妻にとって、セリカの将来を決めることは一世一代の大事な決断であり、決して軽んじるわけにはいかなかった。


アコード王子は深呼吸をし、再び説得を始めた。


「公爵夫妻、前回のお話で私の気持ちをすべてお伝えできなかったかもしれません。ですが、私がセリカ様との婚約を望む理由は単なる政略ではありません。もちろん、彼女の才覚がリュミエール王国全体にとって必要だと考えていますが、それ以上に、彼女自身に対する強い思いがあるのです」


彼は言葉を選びながら、自分の真摯な気持ちを慎重に伝え始めた。前回の説得では触れなかった個人的な感情にまで踏み込んで話すことで、公爵夫妻に彼の誠実さを理解してもらいたいと考えていたのだ。


「セリカ様はただの賢才ではなく、彼女の温かさと責任感、そして領民を慈しむ心が、私にとっても非常に尊敬に値するものです。彼女のような女性が王妃となることで、王国全体がより健全に、より良い未来へと導かれると信じています」


公爵夫妻は、アコード王子の言葉に静かに耳を傾けていた。夫妻もまた、セリカが領民を大切にするその姿勢に誇りを感じており、彼女が他者から評価されていることは喜ばしいことだった。しかし、同時にそれが彼女を王室に送り出す決定打にはならないと考えていた。


公爵夫人が口を開いた。


「王子のお気持ちは十分に伝わりました。そして、セリカが持つその優しさと知恵を評価してくださっていることに、私たちも感謝しております。しかし、彼女が本当に王妃となることが幸せかどうか、それはまた別の問題です」


公爵夫人の言葉には、母親としての強い思いが込められていた。彼女はセリカをただの婚姻の駒にしたくはなかった。セリカが本当に輝ける場所で幸せに過ごせることが何よりも大切であり、それがたとえ王妃の座であっても、簡単に同意するわけにはいかなかったのだ。


それでもアコード王子は諦めることなく、公爵夫妻の目をまっすぐに見つめて、さらに言葉を続けた。


「私も彼女の将来がどれほど重要かを理解しております。ですが、私は彼女をただの王妃としてでなく、共に歩むパートナーとして迎えたいのです。私たちが共にこの国を支え、繁栄させることで、彼女が持つ理想や志を共に叶えていきたいと思っています」


アコード王子の言葉には、前回以上の熱意と誠実さが感じられた。公爵夫妻はその真摯な姿勢に心を動かされながらも、慎重な態度を崩さなかった。しかし、確かに彼の言葉には、セリカを本当に大切にしたいという思いが込められていることを感じていた。


公爵は一度考え込んだ後、王子に対して静かに告げた。


「アコード王子、あなたの言葉には確かに誠実さが感じられます。私たちも、あなたがセリカを大切に思ってくださっていることは理解いたしました。しかし、私たちには彼女を守る責任があり、彼女が最も幸せな道を歩めるかどうか、それが確信できるまでお応えすることは難しいのです」


公爵の言葉はやはり慎重だったが、そこにはわずかに心が動いている様子も伺えた。アコード王子の真摯な姿勢と誠実な言葉が、公爵夫妻の心に少しずつ響き始めているのだ。



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アコード王子は、まだ夫妻の同意を得られていないことを理解しつつも、少しの希望を感じていた。彼は再び深く礼をして、言葉を続けた。


「私はこれからも何度でも足を運びます。どうか、私の誠意と決意を信じていただける日が来ることを願っております。私はセリカ様の未来に真摯に向き合い、彼女の幸せを第一に考えております」


ディオール公爵夫妻は、アコード王子のこの決意に対して無言のままだったが、その表情には微かな温かさが感じられた。彼らにとっても、アコードのように誠実な思いでセリカに向き合ってくれる人物が現れたことは驚きであり、同時に喜ばしいことでもあった。


夫妻はその場で最終的な返事をすることは避けたが、アコード王子の再婚約の申し出について、じっくりと考えることを約束した。夫妻がアコードの真意を理解し、彼の信念を信じる日が来るかどうかはまだわからなかったが、少なくとも彼の存在を無視することはできなくなっていた。



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こうして二度目の説得は終わり、アコード王子は希望と共にディオール領を後にした。彼はこれで終わりではなく、何度でも誠意をもって夫妻を説得するつもりでいた。ディオール公爵夫妻もまた、その帰路を見送る王子の姿に少しずつ心を動かされ始めていたが、それでも決断は慎重であり続けるつもりであった。


アコード王子の挑戦はまだ続く。



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