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第101話 公爵夫妻の揺らぎとセリカの決意



アコード王子の二度目の訪問から数日が経過し、ディオール公爵夫妻は、セリカの将来について深く考え込んでいた。公爵夫妻はアコード王子が見せた誠実な態度と、その真摯な思いに心を動かされつつも、娘を王妃として送り出す決断を下すことには依然として慎重だった。セリカが王妃となれば、彼女の知恵や才能は確かにリュミエール王国全体の繁栄に寄与するだろう。しかし、ディオール領を発展させてきた彼女の存在が領地を去ることで、領民に及ぼす影響も無視できない。


ディオール公爵は夫人とともに書斎で向き合いながら、セリカをどうすべきかを議論していた。


「アコード王子の気持ちは確かに伝わっている。彼がセリカの才能を尊重し、彼女の幸せを願っているのも疑いようがない。しかし、私たちの娘が王妃となることで、彼女が本当に幸せになれるかどうか…」


公爵の言葉に、公爵夫人は静かにうなずきつつも、同じ疑問を抱えていた。セリカがこれまで築き上げた領地の繁栄を、彼女が王宮に入ることで失う可能性もある。公爵夫人もまた、娘が他の貴族や政治的な駆け引きに巻き込まれることで、心をすり減らすのではないかという不安を抱えていたのだ。


「私たちがセリカにとって最も良い選択をする責任があることは確かです。しかし、それが本当にアコード王子と共に歩む道であるかどうか、確信が持てません」


公爵の言葉に、夫人も深く考え込んだ。そして、二人はついにセリカ本人の意見を聞くべきだという結論に達した。彼女が望む道を尊重し、その上で最も賢明な選択をするのが親としての務めであると、彼らは考えたのだ。



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その日の夕暮れ、セリカは両親から書斎に呼ばれた。両親の表情から何か重要な話があることを察し、セリカは緊張しながらもその場に向かった。父と母が真剣な面持ちで話しかけてきたとき、彼女は自然と姿勢を正した。


「セリカ、お前の将来について、私たちは今まで話し合ってきた。しかし、アコード王子の申し出に対しては、最終的な決断を下すためにお前の意見が必要だと考えたのだ」


ディオール公爵は穏やかな口調で話し始めたが、その言葉には重い責任感が滲んでいた。彼は、親としての自分たちが決断を押し付けるのではなく、娘の意志を尊重したいと考えていた。


セリカは父の言葉を静かに受け止め、しばらく考え込んだ。彼女にとってもアコード王子の申し出は意外なものであり、その影響は計り知れないものだった。しかし、彼女は王子たちが自分を政略結婚の道具として見ているのか、それとも彼女自身を一人の人間として尊重しているのかを慎重に見極める必要があると感じていた。


「アコード王子の気持ちは理解しています。そして、彼の誠実さも感じ取れました。でも…」


セリカは一瞬言葉を探し、慎重に続きを述べた。


「私が王妃になることで、ディオール領やここで暮らす人々にどのような影響を与えるか、それが気がかりです。私はこの領地を守り、皆の幸福を第一に考えてきました。それを失うことが、果たして本当に良い選択なのでしょうか?」


セリカの言葉には、彼女がディオール領とその住民たちに対して抱いている深い愛情が込められていた。両親もその言葉に心を動かされ、彼女の強い意志と責任感に感銘を受けた。


公爵夫人は娘の手を取り、柔らかく言葉をかけた。


「セリカ、あなたの気持ちはよく分かります。そして、私たちもあなたの幸せを第一に考えています。ですが、アコード王子は真摯にあなたを王妃として迎えたいと考えています。彼のもとでの生活もまた、あなたにとって新たな挑戦と成長の場となるかもしれません」


セリカは母の言葉を聞き、再び考え込んだ。確かに王妃となることで新たな経験を積み、国全体を導く力となる可能性はある。しかし、彼女にとってそれが本当に望むべき道かどうか、依然として迷いが残っていた。



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その夜、セリカは一人で自室に戻り、思索にふけっていた。彼女はこれまで、ディオール領の発展と領民の幸福を最優先に行動してきた。しかし、今ここで自分が王宮に入ることで、彼らが不安定な状況に置かれる可能性もあると考えると、簡単には決断を下せなかった。


「私がいなくても、ディオール領はこれまで通りに発展し続けられるのか?」


セリカは自問自答しながらも、これからの自分の役割について真剣に考えた。もしアコード王子と共に歩む道を選んだ場合、ディオール領や領民たちが自分のいない中で繁栄していけるよう、確固たる体制を整える必要があると感じた。そして、それが実現できた時こそ、初めて彼女自身が自由に未来を選べる状況になるのではないか、と考えたのだ。


彼女は翌朝、両親のもとに再び姿を見せ、はっきりとした決意を表明した。


「お父様、お母様、私はまだ王妃としての道が本当に自分にふさわしいかどうか、完全には確信が持てません。でも、アコード王子の思いに応えられるよう、自分がディオール領から離れても、ここが変わらず発展し続けられる体制を整えたいと考えています。それができた時、改めて彼の提案について考えたいと思います」


ディオール公爵夫妻は、セリカの言葉に深くうなずいた。彼女が自らの責任を果たし、自分の手で未来を切り開こうとする姿勢に、彼らは親としての誇りを感じた。


「セリカ、あなたの決意が固まるその日まで、私たちはいつでもあなたを支えるつもりです。必要なことがあれば、どんなことでも力を貸しましょう」


こうして、セリカはディオール領のための準備を始め、自分がいない中で領地が繁栄し続けられる体制を整えることを目標に定めた。彼女にとって、王妃の道に進むか否かの決断はまだ先だったが、少なくとも今、自分にできる最善の準備をしておくことが重要だと感じていた。


そして、アコード王子もまた、セリカの真剣な決意に報いるため、彼女が望む未来を共に築くためにどんな努力も惜しまない覚悟を固めつつあった。



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