セリカの決意を受けて、ディオール領は静かに変化を始めた。セリカが不在でも領地が安定して運営されるよう、彼女は新たな組織や体制を整えることに専念した。彼女が育ててきた側近や優れた人材たちが、各々の役割を確立し、ディオール領の未来を支える準備が進められていた。
セリカは、自らの役割が王妃として王国全体に貢献することだとしても、まずはディオール領がしっかりとした基盤を持ち、領民たちが安心して生活できる環境を整えることが先決であると考えていた。そして、それを達成した上で初めて、彼女はアコード王子と共に未来を歩む道を考えられるのではないかと思っていた。
---
数か月が経ち、ディオール領では、セリカの指導のもとで新たな体制が次第に整えられていった。重要な役職には信頼できる人物が配置され、彼らが主導して領地の運営が行われるようになりつつあった。また、地域の領民代表を集め、定期的に意見を交わす場を設けることで、領民の声が直接届く仕組みも作り上げられた。この新たな体制が確立されることで、セリカが領地を離れても持続的に発展できるという安心感が少しずつ芽生え始めていた。
セリカはその成長を見守りながら、次第に自分がいなくても領地が運営される姿に安堵の気持ちを抱くようになっていた。そして、領地を信頼できる人々に託せる準備が整ってきたと感じたとき、アコード王子との未来を真剣に考える心の余裕が生まれ始めたのだ。
---
ある日、ディオール領を視察していたアコード王子が、セリカのもとを訪れた。彼は、彼女が短期間で領地をまとめ上げ、安定した基盤を築き上げたことに感心していた。王子にとっても、この準備期間は大切な時間だった。セリカの決意と覚悟が本物であることを目の当たりにし、彼もまた彼女を支えたいという気持ちが強くなっていた。
「セリカ様、あなたがこのディオール領に尽力されてきた姿勢に、心から敬意を表します。これほどまでに領地を整えられたあなたを、ますます王妃として迎えたいと感じています」
アコード王子は改めて自らの決意を述べ、彼女が王妃として国を支える存在として相応しいことを確信していると伝えた。
セリカはその言葉を静かに聞きながらも、自らの気持ちを冷静に見つめていた。彼女にとってアコード王子との未来はまだ曖昧であり、自分が本当にその役割を全うできるのか確信が持てない部分があった。
「アコード王子、私はディオール領が私の手を離れても、ここが変わらずに発展し続けられるように準備を進めてきました。それでも、王妃として歩むことが私にとって最善の道なのかどうか、まだ迷いがあります」
彼女は正直な気持ちを打ち明け、アコード王子に対して疑問や不安を隠さずに話した。それは、彼にとっても意外な返答だったかもしれないが、セリカの率直さに対して彼もまた真剣に耳を傾けていた。
「セリカ様、あなたが抱くその迷いは、あなたが真剣に領民と王国の未来を考えている証だと思います。私も、あなたに無理をさせるつもりはありません。ただ、あなたと共に歩み、王国を導いていくために支え合う関係を築きたいのです」
アコード王子は、自分がセリカに対して持つ想いがただの政略的なものではないことを真剣に伝えた。彼はセリカを一人の人間として尊重し、彼女の意志や未来を大切にしたいという思いを込めて話していた。
---
数日後、セリカは再びディオール公爵夫妻と話し合いの場を持った。彼女は今までの準備が整ったこと、そしてアコード王子との関係について自分が考え抜いた結果を報告するためだった。
「お父様、お母様、私はこれまでディオール領が私の手を離れても安心して運営されるよう、全力を尽くして準備を進めてきました。その上で、私がアコード王子と共に王妃として歩む道について、ようやく決意を固めることができました」
セリカの言葉に、両親は静かに耳を傾けていた。彼女の成長と自立を見届けてきた彼らにとって、その言葉には娘の覚悟と自信が感じられ、誇りの気持ちが芽生えた。
「セリカ、お前がこうして自分の意志で決断を下せるようになったこと、本当に誇りに思う。私たちはお前の決断を尊重し、どんな形でも応援するつもりだ」
ディオール公爵は感慨深げにそう述べ、公爵夫人もまた温かい微笑みを浮かべて娘を見守った。二人にとって、セリカが王妃として王国に貢献しようとする決断は寂しさも伴っていたが、彼女の成長を信じ、見送る覚悟があった。
---
その後、アコード王子とセリカの再婚約の話は正式に進み、王国全体にとっても注目の出来事となった。王宮内でも彼女の能力と誠実さに対する期待が高まり、多くの人々が新しい王妃として迎え入れられる日を待ち望んでいた。
セリカにとっても、この決断は人生の大きな転機であり、新たな責任を伴うものであったが、ディオール領の発展に尽力した経験が彼女にとっての支えとなっていた。彼女はこれまでの経験を糧にし、王妃としての役割を全うするための心構えを持って王宮へと向かう準備を進めていった。
こうして、セリカはディオール領の未来を見守りつつ、アコード王子と共にリュミエール王国の繁栄に貢献するための新たな一歩を踏み出すことを決意したのだった。