エリシオン王子は政略結婚に対しても、他の王族や貴族たちとは異なる独自の見解を持っていた。彼は王族としての責務を理解しており、政略結婚が貴族社会において避けられないものであることを十分に承知していた。しかし、自分がその一員として関わることに対しては、どこか冷ややかな視点を持っていたのだ。
「政略結婚か…。好き合う二人が結ばれるべきだ、などという青臭い理屈は信じないが、だからと言って人を支配するために結婚を利用することも、私には気が進まない」
彼は、結婚が単なる権力の手段として利用されることに対して、深い違和感を抱いていた。特に、愛情や個人の意志を無視して、家庭が政治の道具として扱われることに嫌悪感を抱いていたのである。それは、王族としての義務感からではなく、彼の持つ人間としての誠実さと高潔さが生み出した信念でもあった。
エリシオンにとって、結婚とは本来、愛情や信頼の上に築かれるべきものだという考えがあった。しかし、彼はその理想が王族としての現実とは大きくかけ離れていることも分かっていた。彼は理想主義に走ることはなく、現実に適応しつつも、自分の信じる価値観を守ろうとしていた。
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エリシオンが政略結婚に対して冷淡な姿勢を取っていることは、王宮内でも知られていた。特に、兄弟たちがセリカ・ディオールを巡って競い合い、彼女を自分のものにしようと画策している様子を見るたびに、彼は静かにため息をついていた。セリカが持つ才能や賢さは彼も一目置いていたが、彼女を政略結婚の駒として扱うことには反対だった。
「セリカ嬢…非常に興味深い人物ではあるが、大人が子どもの未来を潰すような真似はすべきではない」
彼は心の中でそう思い、彼女が自由に自分の道を選べるよう願っていた。エリシオンにとって、セリカのような若い才能を王族の都合で束縛し、その未来を制限することは罪だと考えていた。自分のために彼女を犠牲にすることなく、彼女がその力を存分に発揮できる場所で輝けることを望んでいたのだ。
また、兄弟たちがセリカを巡って熾烈な争いを繰り広げる姿は、エリシオンにはどこか滑稽に映った。彼は王族としての義務感は持っていたが、自らを政治の駒として扱うことは拒んでいた。自分が主張を通すことで他人を巻き込み、周囲に波紋を広げることを嫌っていたのだ。
「家の兄弟たちは、揃いも揃って何をしているのだろう…」
彼はそう呟きながら、兄弟たちがセリカを巡って争っている様子を冷静に見守っていた。彼にとっては、彼らの行動はまるで幼い子どもが自己主張に夢中になっているかのように映っていた。セリカが持つ影響力や才能が魅力的であることは理解できるが、それが彼女自身の意思を無視した形で利用されることは許されるべきではない、と彼は強く感じていたのだ。
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ある日、エリシオンは友人と共に庭園を歩いている時、セリカ・ディオールについて話題になった。彼の友人は、セリカが持つ才能や魅力について熱心に語り、彼女が王家にとってどれほどの価値を持っているかを強調した。
「エリシオン殿下も、あのセリカ嬢には少なからず関心をお持ちなのでしょう?」
その問いにエリシオンは少し微笑み、友人に答えた。
「確かに彼女は興味深い人物だ。しかし、私は王位や権力のために人を利用することには賛成できない」
友人はその答えに少し驚いた様子を見せたが、エリシオンは構わず続けた。
「もし彼女が自ら選ぶのなら、それを尊重したい。ただ、他人がその自由を奪うことには反対だ。彼女は自分の未来を選ぶ権利がある」
エリシオンの言葉には、彼が持つ高潔さと彼女への配慮が感じられた。彼にとって、セリカはただの政略の対象ではなく、一人の人間として尊重すべき存在だった。彼は兄弟たちがセリカを巡って争う様子を冷ややかに見つつも、彼女が最終的には自分の意志で選べる道を歩めるよう願っていた。
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エリシオンは、セリカが自分にとって「特別」だとは思っていなかった。彼にとって、彼女は単に「興味深い人物」であり、その人生が束縛されることなく、自由に選ばれるべきだと感じていた。しかし、兄弟たちの争いが激化し、セリカに対する圧力が高まるのを見て、彼の中に少しだけ焦燥感が芽生え始めていた。
「もし彼女が巻き込まれることなく、自由に未来を選べるのなら…」
エリシオンは心の中でそう願った。彼はセリカが自分の力や意志で人生を切り開く姿を見たいと考えていた。そして、彼女が王家の策略や貴族の欲望に翻弄されることなく、自らの道を進めるようにと祈っていた。
彼が表立ってセリカのために何かをすることはないが、彼女の未来に関わることで自分がその自由を阻む要因となるならば、彼は自身を引き、彼女を見守る立場に徹することを選ぶだろう。それがエリシオンの哲学であり、彼が政略結婚に対して取る姿勢だった。
彼のその冷静な姿勢は、王宮内で異端視されることもあったが、それがエリシオンの信念だった。