翌朝——目を覚ますと、そこは病院だった。
白い天井。消毒液のにおい。うっすらとした頭の痛み。
結局、名取には逃げられたらしい。
「お、目を覚ましたか。元気そうじゃないか」
穏やかな声が聞こえ、振り返ると飛鳥所長が椅子に腰かけていた。
手には小皿。その上には、丁寧に剥かれたリンゴの薄切りが並べられていた。
「所長……」
俺は思わず苦笑する。
「りんご、好きなんですね」
「ばれたかい。でも、まぁ病人にはこれが一番効くんだよ」
「俺、病人じゃないですって」
冗談を交わしながら、俺はゆっくりと体を起こした。
◆ ◆ ◆
数時間後。
無事に退院して病院を出ると、見慣れた男が車の横にもたれていた。
「よう」
釜野だった。
サングラスを上げて、軽く手を振る。
そのまま彼の車に乗り込み、警視庁へ向かう。
「本当に、すまない。……逃げられてしまった」
「……仕方ありません。奴、スモークグレネードの他にもいろいろ持ってました」
「だろうな。家から武器が山ほど見つかった。爆薬の痕跡もいくつか。完全に戦闘用の備えだ」
車は都心の幹線道路を抜け、やがて薄暗いトンネルに差しかかった。
そのとき——
ひゅーっ
ドカンッ!!
「……は?」
運転席の窓に、何かが炸裂した。
破片——いや、違う。
これは……爆薬ではない。もっと奇妙な、違和感のある“衝撃”だった。
咄嗟に窓の外を見る。そこには——
「馬……?」
馬に乗って並走する二人の男。
中世の騎士のような風貌。鎧をまとい、手のひらをこちらに向けている。
釜野が叫ぶ。
「おいおいっ、なんだよアレ!」
「釜野、止めろ!!」
キィィィィーーッ!!
タイヤが悲鳴をあげ、車は急停車する。
男たちは馬から飛び降り、無言のままこちらに迫る。
その手のひらには淡く光る紋様のようなものが浮かび上がっていた。
「やばい……あいつら、撃ってくる……!」
直感が叫ぶ。
「伏せろぉぉぉぉぉ!!」
次の瞬間——視界が白く染まり、爆音が世界を飲み込んだ。
——意識が、途切れる。