目を覚ますと、暗いトンネルの中だった。助手席に倒れこんだ体は、全身の節々が痛む。釜野刑事の声が、遠くでこだましていた。
「な、何が起きた……?」
振り向くと、トンネルの出口に向かって、ローブを羽織った二人の男がこちらに歩み寄ってくる。胸に手を当て、ゆっくりと炎を宿す構えだ。
「伏せろ!」
釜野が必死に俺の頭を押さえつける。
「応援を呼べ!」
俺の声に、彼は無線機を手に取った。
「至急! 新宿トンネル内にて、乗馬の男二名が発砲及び爆発物所持の可能性アリ! 応援を要請する!」
俺はポケットから拳銃を抜き放つ。釜野が慌てて声を上げた。
「おい、それは銃刀法違反だ!」
「そんなこと言ってる場合かよ! 次、来るぞ!」
二人の男は今にも手のひらから燃え盛る火焔を放たんとしている。俺は少し身を起こし、狙いを定めた。
——バァン!
ひとりの胸を貫き、男は「ぐっ……!」と呻きながら崩れ落ちた。残る一人が逆上し、双眸を赤く光らせる。
——バァン!
すかさず二発目を放ち、もう一人も地面に投げ出された。
銃声が響く中、俺は急いで手錠を取り出し、足を引きずりながら倒れた二人の元へ歩を進めた。
「お前ら、何者だ」
拳銃をかざし、伏せたままの男をにらみつける。
ローブを脱ぎ捨てた男は、血まみれの手を胸に当て、か細く名乗った。
「俺はレガース。お前は終わりだ……」
「はあ?」
俺は首をかしげた。
「ティード海賊団員を撃っただろう。船長が黙ってるはずがない」
「じゃあお前も、終わりだよ」
冷たい声で言い放ち、手錠を嵌める。
「海賊共の目的は何だ。なぜ俺たちや雪、子供たちを狙う」
レガースはくすりと笑った。
「教えてやるよ。船長の計画は──並行世界を繋ぐ能力を持つ人間に子を産ませ、軍隊を作ることだ」
「軍隊?」
俺の眉が吊り上がる。
「その能力者は三人。お前と、“ガウス”と呼ばれる男、そしてお前の恋人・雪。ガウスは男だから子は産めない。だから最近、雪を捕らえたのさ。もう子供を求める必要はなくなったが、金になるから人身売買は続けるつもりだ」
「俺を狙ったのは、その予備要員としてか?」
「そのとおりだ。ガウスが死んだときの代役としてお前を──」
レガースの自慢げな声音を遮るように、俺は両手で彼の首に手をかけた。
「ふはっ……」
呻き声とともにレガースの顔が歪む。
「聞いとけチンピラ。そんな計画で俺がビビるとでも思ってんのか?」
さらに締め上げる。
「日本を敵に回すってのが、どれだけ愚かなことか……よく考えとけ」
血の気が引く中、俺は最後通告を放つ。
「お前ら、残らず片端から潰してやるからな」
レガースは呻き声と共に「ひぃ!」と絶叫したかと思うと、目の前からふっと消えた。ガウスも同様だった。
「まさか……“瞬間移動”も、魔法の一種か?」
呆然とする俺の耳に、やがてサイレンが近づく音が届いた。
——ウォーン、ウォーン……
やがてトンネル内に複数のパトカーが駆け込んできた。
「遅えよ……無能共が」
俺は拳銃を握りしめたまま、意識の霞みと合わせて瞳を閉じた。