翌朝、飛鳥探偵事務所
気を失ってから、また病院に運ばれたが、さほど時間が経たないうちに退院し、ようやく事務所に戻ってきた。だが、所長・飛鳥の姿は見当たらない。
ソファに背中を預けると、全身が疲れ果てているのを感じる。
「はぁ…あー、えぐい、マジで疲れた…」
意識を失い、撃ち合い、殴り合い…そしてまた意識を失う。この繰り返しで、もうクタクタだった。
それでも、頭に浮かぶのは雪のことだった。
「雪…今、どんな目に遭ってるんだろうな…」
ふと、自分の無力さに苛まれる。
「俺は…何をやってるんだ…」
俺は唇を噛みしめて、決意を固めた。
「なりふり構ってる場合じゃない。とりあえず、動いてみるか」
ソファから立ち上がり、スモーク山で世界を繋げた経緯を思い返してみる。あの時、俺は怒りに任せて雪を蹴り上げた。その瞬間に裂け目が現れ、元の世界に帰れた。
――怒りがカギだったのか。
目を閉じ、海賊たちやエルフたちのことを思い出す。奴らが今も人間を家畜のように扱っているという事実が、心の底から湧き上がる怒りに火をつける。
「ひらけ…ひらけ…ひらけ…」
小声で三回呟いた。大きく息を吸い込み、怒りを全身に込めて、力強く叫んだ。
「ひらけぇぇぇ!!」
ブォン!
デスクの前に、見慣れたゲートが現れた。再び異世界との接続ができたのだ。
「はは、マジで出来た…」
俺はゲートをくぐり、再び異世界に足を踏み入れた。
目の前に広がったのは、予想を超える光景だった。巨大な海賊船が停泊し、ゴロツキたちが剣を振りかざして町を徘徊している。活気のあった商店街も、どの店もシャッターが閉められていて、まるで死んだ街のようだ。
――ティード海賊団に支配された港町ダイアリー。
「は?何があったんだ、これ」
俺の心は一瞬凍りついた。アリスやコロウは無事だろうか?いや、アリスに関しては今度会ったら、本当にひき肉にされるかもしれない。様子を見に行くのはやめておこう。
振り返ると、現れたゲートはすでに消えていた。どうやら、ゲートの顕現時間には制限があるらしい。
俺は銃を構え、海賊船に向かって歩き始めた。その時だった。
「貴様を待っていた」
突然、背後から声が響いた。
振り返ると、ローブを羽織った大男が立っている。その姿は、狼のように獰猛な印象を与える。
――ティード海賊団の船長。あのオークション会場で、俺を気絶させた奴だ。
「嘘だろ…」
言葉が出る間もなく、ティードが素早く一歩踏み出し、俺の頭に強烈なパンチを喰らわせてきた。
――意識が、遠くなっていく…。