真夜中のアルタイル城 地下牢
ガチャン!
鉄の扉が音を立て、どこまでも続く闇の一角に拘束されたティードが放り込まれた。
「ぐおお……」
呻き声が響く中、鎧を鳴らして一人の剣士が立っていた。
「なんという怪物だ。貴様ひとりを捕らえるのに、騎士団と兵士たち総動員とはな」
クリスはあくびをしながら頭を掻き、ぼやいた。
「ぐっすり寝てたのに、手間取らせやがって」
ティードは顔を上げると、低く問いかけた。
「なぜすぐに殺さない?」
「陛下が目覚めた後、貴様を正式に処刑する。それが政府全体の判断だ」
そう言い残すと、クリスは振り返った。
「こちらも陛下の警備を固めるぞ」
メントが重々しくうなずいた。
「いつ海賊が奇襲を仕掛けてきてもおかしくないですからね。……しかし、歩兵だけでは心細い」
「我々も護衛に回る。二人とも気を引き締めろ」
ダグが大きく腕を振って歩き出す。
「クライスのところにはカノンがいるはずだ。さっさと戻ろうぜ」
独房の鍵を締めると、三人は足音を響かせながら廊下を進んだ。
「しかしダグ、貴様なぜ竹槍なんかで戦っているんだ」
「スリルを味わいたいからに決まってんだろ!」
そう言って笑うダグの横顔に、ティードとの一戦で死にかけたことへの屈託がちらついた。
「そしたらティードがいて殺されかけたけどな、あはは」
三人はそのまま医務室へと戻っていった。
AM3時 アルタイル城 上空
「今助けますぞ、ティード様!」
漆黒の夜空を羽ばたきながら、バードリーが叫んだ。
「羽爆弾で空爆を起こしてやる! きえええい!!」
ヒューン、ヒューン、ヒューン!
彼の両翼から放たれた羽の針が、鋭く空を裂いて飛んでいく。
無数の羽が城に降り注ぎ、次の瞬間――
ドーン! ドーン! ドーン!
爆発音が連続して響いた。アルタイル城の各所で火柱が上がる。
「早速来やがったな」
ダグが刀の柄に手をかけ、クリスが頷いた。
「始末してやるぞ。行くぞ!」
メントとカノンを医務室に残し、彼らは駆け出した。
「きええええい!!」
バードリーは飛び回りながら正門へ突入した。
ヒューン! どかーん!
「被害甚大! 騎士団に伝えろ!!」
「うわーっ!」
爆発の連鎖が兵士たちを混乱に陥れる。
「冗談だろ……城の中がめちゃくちゃだ」
クリスが眉をひそめる。すでに城の三分の一が崩れ、壁は瓦礫と化していた。
「この鳥野郎を捕まえろ! おら行け!」
怒号と共にダグが叫ぶ。兵士たちは慌てて動き出した。
「王子たちの護衛は!?」
「カノンと武装兵士がいる!」
ティードの元へ向かおうと、二人は再び駆け出した。
地下牢
「来たか」
暗がりの中、ティードが目を細める。
「今お助けしますぞ、我がマスター」
バードリーが羽ばたきながら降り立つと、その羽を金属のように硬化させ、鉄格子と錠前を切り裂いた。
「ぐおおおおおおおああああああああああああああ!!!!!!!」
ティードが咆哮し、身体が狼へと変貌していく。
「俺様がぁ!! キャプテン・ティードだああああ!!」
怒りに身を任せ、牢を飛び出す。
「動くな!」
兵士たちが剣を構えるが――
「グルルルル……」
唸り声を聞いた瞬間、彼らは恐怖で足をすくませた。
「ひぃっ!」
誰もが後ずさり、逃げ出す。
「王子と王女を人質に捕らえる。今すぐ城各地で爆撃を行い、混乱させろ」
「ケケケ、承知いたしましたぞ、マスター」
不敵に笑うバードリーは羽ばたき、再び王宮内へと飛び去った。
「ぐおおおおおおあああああ!!」
ドゴーン! ドゴーン!
ティードは拳で天井を破壊し、階上へと跳躍した。
子供部屋
「お兄ちゃん……怖いよぉ……」
サナ王女が震える声でつぶやく。
「大丈夫。カノンさんと僕がついてる」
王子ガルルは妹を庇いながら、小さな体を張った。彼とサナは、クライスと故マリアの双子の子供であり、中学二年生。大魔術中学校に通っている。
「大丈夫! 何があっても私が必ず守るから!」
カノンが鋭い眼差しで立ちはだかり、マチェットナイフを構えた。
ゴゴゴゴゴ……
「来る……!」
ドゴーン!!!
「ぐおおおおおあああああああああああああああああ!!!!!」
ティードが壁をぶち破って乱入した。
「きゃああああああああ!」
サリが悲鳴を上げ、ガルルも叫ぶ。
「わああああああああ!!」
「ハァッ!」
カノンがマチェットを振るう――しかし、その一撃はティードに掴まれた。
「……!?」
「俺様がこの程度の剣で傷がつくわけないだろ。失せろ」
バリン!
カノンの身体が勢いよく窓の外へと放られた。
「くっ……クリス、ごめんなさい……!」
ぼちゃん!
湖に落ちていく音が響いた。
「来てもらうぞ、餓鬼ども」
ティードは王子と王女の腕を掴み、窓から飛び出した。
「来い、ドラゴ!」
「キャアア!!」
小さな竜が飛来し、ティードのコートを掴んで空へと舞い上がった。
すぐさまバードリーが合流する。
「やめてぇ! おろして!」
ガルルが必死に叫ぶが、バードリーが口を歪めた。
「だまれガキ!」
「これで取引をする。探偵との交換だ。俺様を痛ぶったあの探偵に、地獄を見せてやる」