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第37話

正午 王都


馬車が王都の門をくぐったと同時に、兵士たちの鋭い視線が俺に集中した。何本もの剣が俺に向けられている。まるで犯罪者でも連行しているような扱いだ。


門の前では、騎士団のダグとクリスが待ち構えていた。雪を踏みしめる音も、どこか緊迫感を帯びている。


「来たな、イカれ探偵。」

ダグが皮肉交じりに言い捨てた。


クリスが手を上げて兵士たちに命じた。「あとはこちらで引き継ぐ。兵士たちは持ち場に戻れ。」


「は?」

状況が飲み込めないまま反応すると、バシッという音と共に、腕に激痛が走った。


「ぐぎぎぎぎっ……いてえええええ!! 何しやがる!!」


ダグが俺の腕を捻り上げながら低く囁く。「悪いな。こっちも人命がかかってるんだ。お前みたいな家畜は、絶好の駒なんだよ。」


「家畜だぁ? だったらお前も同じだろ、あぁ? その丸い耳が何よりの証拠だ。同類だよな、俺たち。」


ピキ……バキィッ!!


「ぎゃああああ!!」

ダグは躊躇なく俺の右腕をへし折った。激痛に崩れ落ちる俺の頭を、ダグの手が鷲掴みにする。


「いいか、クズ野郎。二度と俺を人間なんて呼ぶな。」


「……あはは、考えといてやるよ、“人間”さんよ。」


ダグの拳が振り上げられた、その時だった。


「いい加減にしろ!」

城の正門からクライスが現れ、怒声を響かせた。「さっさとそいつを王室へ連れてこい!」


俺は騎士団に囲まれたまま、王室へと連れて行かれた。


「まもなく、ティードが子供たちを連れてここに現れる。」

クライスが横に並びながら言う。


「交換ってわけか。」

苦しげに腕を抑えながら、俺が返すと、


「その通りだ。」

クリスが淡々と応じた。


王室に入ると、豪華な食卓テーブルがずらりと並んでいた。コツコツという靴音と共に、使用人が現れ、ワインを注ぐ。


静かな待機の時間が流れる。


――ドゴォン!


突如として王室の扉が吹き飛び、ティードが現れた。両脇にはロープで拘束されたガルルとサナの姿。兄妹は衣服も髪も乱れ、ボロボロだった。


「邪魔するぜ。」


「ティード!」

クライスが叫ぶ。「この探偵をやる! さっさと子供たちを解放しろ!」


「まぁ待てって。まずは腹ごしらえだ。」


ティードは子供たちの拘束を解くと、悠々と椅子に腰を下ろした。ガルルとサナはよろめきながらもクライスの元へ走り寄り、泣きながら彼の腕に飛び込む。


「ガルル……サナ……!」

クライスは二人を強く抱きしめた。


そして、ティードの前に“それ”が運ばれてきた。血の滲んだ肉の塊。人間の……。


「おう、来たな!」

ティードは歓喜しながら肉を手づかみでむさぼり始めた。ぐしゃ、ぐちゃ……咀嚼音が不快に響く。


最悪だ。このまま海賊に連れ去られるのか……?


――その時だった。


「お迎えに上がりました、船長。」

ゴツゴツとした体格の男が現れた。ガーゴンだ。


「探偵を連れていけ。」

ティードが命じたその瞬間、


「ですが、そうはいきませんよ。」


「……なんだと?」


ドォン!


岩が生成され、勢いよくティードに直撃した。ティードの体が吹き飛び、豪華な机ごと床に叩きつけられる。


「ぐおおおおあああ!!」


「貴様……ガーゴン……裏切ったな……!」


ティードが血を吐きながら立ち上がろうとする。その間に、クライスたちが剣を抜き、俺の前に立ちはだかった。


「この探偵の力は、貴様には渡さない。」


ガーゴンが背を向けながら答える。「悪く思わないでくれよ、船長。」


「ダイス、奴を叩き潰せ!」


クライスの号令と同時に、天井からサイコロの形をした奇怪な目玉が降りてきた。


ビーッ!!


ビームが王室を薙ぎ、ティードの周囲を一掃した。

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