正午 王都
馬車が王都の門をくぐったと同時に、兵士たちの鋭い視線が俺に集中した。何本もの剣が俺に向けられている。まるで犯罪者でも連行しているような扱いだ。
門の前では、騎士団のダグとクリスが待ち構えていた。雪を踏みしめる音も、どこか緊迫感を帯びている。
「来たな、イカれ探偵。」
ダグが皮肉交じりに言い捨てた。
クリスが手を上げて兵士たちに命じた。「あとはこちらで引き継ぐ。兵士たちは持ち場に戻れ。」
「は?」
状況が飲み込めないまま反応すると、バシッという音と共に、腕に激痛が走った。
「ぐぎぎぎぎっ……いてえええええ!! 何しやがる!!」
ダグが俺の腕を捻り上げながら低く囁く。「悪いな。こっちも人命がかかってるんだ。お前みたいな家畜は、絶好の駒なんだよ。」
「家畜だぁ? だったらお前も同じだろ、あぁ? その丸い耳が何よりの証拠だ。同類だよな、俺たち。」
ピキ……バキィッ!!
「ぎゃああああ!!」
ダグは躊躇なく俺の右腕をへし折った。激痛に崩れ落ちる俺の頭を、ダグの手が鷲掴みにする。
「いいか、クズ野郎。二度と俺を人間なんて呼ぶな。」
「……あはは、考えといてやるよ、“人間”さんよ。」
ダグの拳が振り上げられた、その時だった。
「いい加減にしろ!」
城の正門からクライスが現れ、怒声を響かせた。「さっさとそいつを王室へ連れてこい!」
俺は騎士団に囲まれたまま、王室へと連れて行かれた。
「まもなく、ティードが子供たちを連れてここに現れる。」
クライスが横に並びながら言う。
「交換ってわけか。」
苦しげに腕を抑えながら、俺が返すと、
「その通りだ。」
クリスが淡々と応じた。
王室に入ると、豪華な食卓テーブルがずらりと並んでいた。コツコツという靴音と共に、使用人が現れ、ワインを注ぐ。
静かな待機の時間が流れる。
――ドゴォン!
突如として王室の扉が吹き飛び、ティードが現れた。両脇にはロープで拘束されたガルルとサナの姿。兄妹は衣服も髪も乱れ、ボロボロだった。
「邪魔するぜ。」
「ティード!」
クライスが叫ぶ。「この探偵をやる! さっさと子供たちを解放しろ!」
「まぁ待てって。まずは腹ごしらえだ。」
ティードは子供たちの拘束を解くと、悠々と椅子に腰を下ろした。ガルルとサナはよろめきながらもクライスの元へ走り寄り、泣きながら彼の腕に飛び込む。
「ガルル……サナ……!」
クライスは二人を強く抱きしめた。
そして、ティードの前に“それ”が運ばれてきた。血の滲んだ肉の塊。人間の……。
「おう、来たな!」
ティードは歓喜しながら肉を手づかみでむさぼり始めた。ぐしゃ、ぐちゃ……咀嚼音が不快に響く。
最悪だ。このまま海賊に連れ去られるのか……?
――その時だった。
「お迎えに上がりました、船長。」
ゴツゴツとした体格の男が現れた。ガーゴンだ。
「探偵を連れていけ。」
ティードが命じたその瞬間、
「ですが、そうはいきませんよ。」
「……なんだと?」
ドォン!
岩が生成され、勢いよくティードに直撃した。ティードの体が吹き飛び、豪華な机ごと床に叩きつけられる。
「ぐおおおおあああ!!」
「貴様……ガーゴン……裏切ったな……!」
ティードが血を吐きながら立ち上がろうとする。その間に、クライスたちが剣を抜き、俺の前に立ちはだかった。
「この探偵の力は、貴様には渡さない。」
ガーゴンが背を向けながら答える。「悪く思わないでくれよ、船長。」
「ダイス、奴を叩き潰せ!」
クライスの号令と同時に、天井からサイコロの形をした奇怪な目玉が降りてきた。
ビーッ!!
ビームが王室を薙ぎ、ティードの周囲を一掃した。