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第38話

 クライスが合図を出す。「ダイス、やれ」


 天井から、目を持った巨大なサイコロが降りてきた。


 ビーッ!!


 ビームがティードを焼き尽くすように放たれ、王室が白光に包まれた。


 「ぐわああああ!」


 その光の中で、ティードが叫んだ。――だが、それで終わりではなかった。


 「ドラゴぉぉぉおお!!」


 バリン!


 窓が砕け、怒声とともに空を割って一匹の小さなドラゴンが飛来する。


 「きえええええっ!」


 ティードがその脚を掴み、ドラゴンは彼を抱えたまま空へと飛び去った。


 「逃げられちまったな……」


 ダグが剣を収め、肩を竦める。


 クライスはガーゴンの肩に手を置き、ねぎらった。


 「ご苦労だったな、ガーゴン」


 ダグがぼやく。「ダイアリーでの戦闘じゃ死にかけたぞ。もうちょい手加減しろよ」


 「手加減すりゃバレるだろ」


 思考が追いつかないまま、俺は問う。


 「……つまり、最初から海賊共のスパイだったってわけか?」


 ガーゴンがうなずく。


 「そういうことだ」


 クライスが続けた。「ティードたちのアジトを探るために、王国の兵士であるガーゴンに潜入させていたのさ」


 それでも聞かずにはいられなかった。


 「……不本意とはいえ、人間の奴隷たちをこき使って心は痛まなかったのか?」


 騎士たちが揃って俺を見て、まるで意味が分からないという顔をした。


 「痛むわけがないだろう」


 ガーゴンの冷たい声が響く。


 「奴らは我々にとって“食事”だ。食い物に同情するか?」


 「……」


 その場を濁すように、ダグが席を立った。


 「ちょっとトイレ行ってくる」


 クライスが話題を戻す。


 「ティードのアジトは特定できた。君の探している人間たちも、そこに捕らわれているだろう。我々は海賊を潰したい。君は奴隷を解放したい。手を組む理由はある」


 「ふざけんなよ。俺を交換材料に使っておいて、今さら手を取り合おうって?」


 「フフ……あれは演技だ」


 そう言って笑みを浮かべる騎士たち。だがその笑みに、もう信頼は宿らない。


 「だが、その前に君に頼みたい事案がある」


 「今度はなんだよ」


 「学園で、私の息子と娘の護衛をしてもらう。三ヶ月間。明後日からだ」


 「子供の護衛? 俺一人で?」


 「安心しろ。カイラが同行する」


 「……あの騎士様がいれば俺なんていらないだろ」


 「彼女は学生だ。授業中は護衛に回れない」


 その時、静かに扉が開いた。


 「失礼します」


 入ってきたのは、白いワンピースを着た麗しい婦人だった。長い髪が柔らかく揺れる。


 騎士団全員が彼女の前に跪いた。


 「おお、ワンダ。具合はどうだ?」


 「今のところは大丈夫。探偵さんに挨拶しておきたくて」


 「ガルルとサナの母のワンダです。あなたが浪野悠さんね」


 「苗字で呼ばれるの、久しぶりだな。じゃあ、あんたがクライス王の奥さんか」


 「この国は今、海賊の脅威にさらされてる。子供たちのこと、お願いね」


 「……そこの優秀な騎士たちに任せればいいじゃねぇか。なんで俺なんだよ」


 「同じ時期に、私はハッタン王国で会合がある。クリスとメントはその護衛として同行する」


 「ハッタン王国……?」


 「砂漠の国さ。ほとんど水がねぇ」


 ダグがトイレから戻ってきたかのように言う。


 その時、扉が開き、鎧を着た騎士――カイラが姿を現した。


 「戻りました。……探偵さん、よろしくお願いしますね。明後日、学園でお待ちしてます」

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