クライスが合図を出す。「ダイス、やれ」
天井から、目を持った巨大なサイコロが降りてきた。
ビーッ!!
ビームがティードを焼き尽くすように放たれ、王室が白光に包まれた。
「ぐわああああ!」
その光の中で、ティードが叫んだ。――だが、それで終わりではなかった。
「ドラゴぉぉぉおお!!」
バリン!
窓が砕け、怒声とともに空を割って一匹の小さなドラゴンが飛来する。
「きえええええっ!」
ティードがその脚を掴み、ドラゴンは彼を抱えたまま空へと飛び去った。
「逃げられちまったな……」
ダグが剣を収め、肩を竦める。
クライスはガーゴンの肩に手を置き、ねぎらった。
「ご苦労だったな、ガーゴン」
ダグがぼやく。「ダイアリーでの戦闘じゃ死にかけたぞ。もうちょい手加減しろよ」
「手加減すりゃバレるだろ」
思考が追いつかないまま、俺は問う。
「……つまり、最初から海賊共のスパイだったってわけか?」
ガーゴンがうなずく。
「そういうことだ」
クライスが続けた。「ティードたちのアジトを探るために、王国の兵士であるガーゴンに潜入させていたのさ」
それでも聞かずにはいられなかった。
「……不本意とはいえ、人間の奴隷たちをこき使って心は痛まなかったのか?」
騎士たちが揃って俺を見て、まるで意味が分からないという顔をした。
「痛むわけがないだろう」
ガーゴンの冷たい声が響く。
「奴らは我々にとって“食事”だ。食い物に同情するか?」
「……」
その場を濁すように、ダグが席を立った。
「ちょっとトイレ行ってくる」
クライスが話題を戻す。
「ティードのアジトは特定できた。君の探している人間たちも、そこに捕らわれているだろう。我々は海賊を潰したい。君は奴隷を解放したい。手を組む理由はある」
「ふざけんなよ。俺を交換材料に使っておいて、今さら手を取り合おうって?」
「フフ……あれは演技だ」
そう言って笑みを浮かべる騎士たち。だがその笑みに、もう信頼は宿らない。
「だが、その前に君に頼みたい事案がある」
「今度はなんだよ」
「学園で、私の息子と娘の護衛をしてもらう。三ヶ月間。明後日からだ」
「子供の護衛? 俺一人で?」
「安心しろ。カイラが同行する」
「……あの騎士様がいれば俺なんていらないだろ」
「彼女は学生だ。授業中は護衛に回れない」
その時、静かに扉が開いた。
「失礼します」
入ってきたのは、白いワンピースを着た麗しい婦人だった。長い髪が柔らかく揺れる。
騎士団全員が彼女の前に跪いた。
「おお、ワンダ。具合はどうだ?」
「今のところは大丈夫。探偵さんに挨拶しておきたくて」
「ガルルとサナの母のワンダです。あなたが浪野悠さんね」
「苗字で呼ばれるの、久しぶりだな。じゃあ、あんたがクライス王の奥さんか」
「この国は今、海賊の脅威にさらされてる。子供たちのこと、お願いね」
「……そこの優秀な騎士たちに任せればいいじゃねぇか。なんで俺なんだよ」
「同じ時期に、私はハッタン王国で会合がある。クリスとメントはその護衛として同行する」
「ハッタン王国……?」
「砂漠の国さ。ほとんど水がねぇ」
ダグがトイレから戻ってきたかのように言う。
その時、扉が開き、鎧を着た騎士――カイラが姿を現した。
「戻りました。……探偵さん、よろしくお願いしますね。明後日、学園でお待ちしてます」