馬車の車輪が石畳を軽やかに叩いて進んでいく。
バカラッ、バカラッ――そんな音が朝の通りに溶け込んでいた。
その馬車の中、俺はカノンと並んで座っていた。窓の外には、雪化粧をまとう王都の街並みがゆっくりと流れていく。
カノンはにこにこしながら、俺の横顔をじっと見つめていた。
「……なんだよ」
思わず声を漏らすと、彼は肩をすくめて言った。
「いやぁ? 短い間だけど、探偵さんがうちの学校に来てくれるなんて、なんだか楽しくてさ」
「警備じゃなくて、子供二人の“警護”だ」
「わかってるって。でも海賊の襲撃があってから王室も動き始めたけど……正直、遅いよね」
「城の警備、歩兵がメインか?」
「うん。歩兵が多数、騎士が二人ってとこかな」
「つまり、シフト制ってやつか」
「そういうこと」
そんな会話をしているうちに、馬車は巨大な校舎の前で停まった。
「乗せてってくれてありがと! またね、探偵さん!」
カノンが軽やかに扉を開け、制服姿のまま馬車から降りていった。続けて俺も足を地につける。
目の前にそびえ立つのは、レンガ造りの堂々たる正門。朝のファンファーレのような賑やかな声が響き渡る中、緑色の制服を着た生徒たちが次々に登校していく。
まるで、映画で見たホグワーツのようだった。
「こんなのが本当に存在するなんてな……」
思わずつぶやいたとき、制服の裾に剣を携えた少年がこちらに近づいてきた。
「どうも、悠さん」
「カイラ君……だよな?」
「ええ。そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。あなたにお願いしたいのは、僕とカノンが授業を受けている間、王子と王女の見張りだけです」
言葉は丁寧だが、その表情は無愛想だった。
「おはよー! 探偵さん! カイラ!」
明るい声が響き、振り向くとアリスが果実を両手に持って駆け寄ってくる。後ろにはギャバットの姿もあった。
「げっ……」
思わず本音が漏れる。どうやらこの三人は仲が良いらしい。
「初めましてだな、探偵」
ギャバットが腕を組みながら静かに言った。
「ああ、みたいだな」
そのとき――。
「ようこそ! ミスター悠! 我が大魔術学校ルーンへ!」
朗々とした声が響き、黒いロングコートに身を包んだ髭面の大男が歩いてきた。
「あなたが……この学校の学園長ですか?」
俺が尋ねると、男はくるりと一回転して指をピンと鳴らしながら名乗った。
「その通り! 私が学園長のサダベルと申します!」
何という濃いキャラだ……。
「この度の王室襲撃を受け、君とカイラ君には特別に王子と王女の護衛を任せることになった」
「護衛、ですか」
「午前中はすべての教室で授業がある。君は王子たちのクラスの最後列の机で、静かに彼らを見張ってくれたまえ」
……なんてこった。
完全に座ってるだけの見張り役じゃないか。退屈極まりない。
でも――やるしかない。
“雪”を取り戻すためには、彼らの力が必要だ。
「わかりました。任せてください」