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ChapterⅢ 学園

第40話

 馬車の車輪が石畳を軽やかに叩いて進んでいく。

 バカラッ、バカラッ――そんな音が朝の通りに溶け込んでいた。


 その馬車の中、俺はカノンと並んで座っていた。窓の外には、雪化粧をまとう王都の街並みがゆっくりと流れていく。


 カノンはにこにこしながら、俺の横顔をじっと見つめていた。


 「……なんだよ」


 思わず声を漏らすと、彼は肩をすくめて言った。


 「いやぁ? 短い間だけど、探偵さんがうちの学校に来てくれるなんて、なんだか楽しくてさ」


 「警備じゃなくて、子供二人の“警護”だ」


 「わかってるって。でも海賊の襲撃があってから王室も動き始めたけど……正直、遅いよね」


 「城の警備、歩兵がメインか?」


 「うん。歩兵が多数、騎士が二人ってとこかな」


 「つまり、シフト制ってやつか」


 「そういうこと」


 そんな会話をしているうちに、馬車は巨大な校舎の前で停まった。


 「乗せてってくれてありがと! またね、探偵さん!」


 カノンが軽やかに扉を開け、制服姿のまま馬車から降りていった。続けて俺も足を地につける。


 目の前にそびえ立つのは、レンガ造りの堂々たる正門。朝のファンファーレのような賑やかな声が響き渡る中、緑色の制服を着た生徒たちが次々に登校していく。


 まるで、映画で見たホグワーツのようだった。


 「こんなのが本当に存在するなんてな……」


 思わずつぶやいたとき、制服の裾に剣を携えた少年がこちらに近づいてきた。


 「どうも、悠さん」


 「カイラ君……だよな?」


 「ええ。そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。あなたにお願いしたいのは、僕とカノンが授業を受けている間、王子と王女の見張りだけです」


 言葉は丁寧だが、その表情は無愛想だった。


 「おはよー! 探偵さん! カイラ!」


 明るい声が響き、振り向くとアリスが果実を両手に持って駆け寄ってくる。後ろにはギャバットの姿もあった。


 「げっ……」


 思わず本音が漏れる。どうやらこの三人は仲が良いらしい。


 「初めましてだな、探偵」


 ギャバットが腕を組みながら静かに言った。


 「ああ、みたいだな」


 そのとき――。


 「ようこそ! ミスター悠! 我が大魔術学校ルーンへ!」


 朗々とした声が響き、黒いロングコートに身を包んだ髭面の大男が歩いてきた。


 「あなたが……この学校の学園長ですか?」


 俺が尋ねると、男はくるりと一回転して指をピンと鳴らしながら名乗った。


 「その通り! 私が学園長のサダベルと申します!」


 何という濃いキャラだ……。


 「この度の王室襲撃を受け、君とカイラ君には特別に王子と王女の護衛を任せることになった」


 「護衛、ですか」


 「午前中はすべての教室で授業がある。君は王子たちのクラスの最後列の机で、静かに彼らを見張ってくれたまえ」


 ……なんてこった。

 完全に座ってるだけの見張り役じゃないか。退屈極まりない。


 でも――やるしかない。

 “雪”を取り戻すためには、彼らの力が必要だ。


 「わかりました。任せてください」

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