カランカラン!
同日 大魔術学校ルーン 大聖堂
今、俺は大聖堂でひとり給食を食べ、ひと休みしている。
隣には、あの"男の娘"が座っている。
今日の給食は、卵と野菜のサンドイッチと、何とも得体のしれない果実。
だが、食べてみると意外にも美味かった。
「探偵さん、一人で食べるご飯は美味しかった?」
カノンがにやにやと、こちらを見ながら問いかけてきた。
「なんだよ、これは馬鹿にされてるのか?」
「私がお昼食べに来なかったら、探偵さん、ずっと独りぼっちだったでしょ?」
カノンがそう言いながら、楽しそうに笑う。
「かわいそうだからね、私が来てあげたの」
俺は何気なくジャケットの胸ポケットを探り、戦いの日々でボロボロになったタバコを取り出し、くわえた。
そして、ジッポライターで火をつける。久しぶりの一服に、ふと癒される。
「もういい。俺はそろそろ王子の授業が始まるから、さっさと中学棟に行かなきゃな」
タバコの火を消し、立ち上がると、足早に歩き始めた。
「気を付けてね、この学校には、人間のあなたを良く思わない人が沢山いるから」
カノンが少し不気味ににやつきながら言った。
「えへへぇ、殺されないように気を付けてね、"人間"さん」
――この大魔術学校ルーンでは、俺の世界で言うところの、小学、中学、高校が一体となっている。
卒業後は、大学に進むか、就職するか、それとも魔法使いをフリーランスとしてやっていくことになる。
ガルル王子とサナ王女は、13歳で今、中学棟にいる。
「カランカラン!」
鐘の音が鳴り、午後の授業が始まることを告げていた。急がなければ。
中学棟Bクラス。
コンコンコン。
「来たみたいだな、どうぞ」
ローザ先生の声が教室の中に響く。
ガララ。
「遅れて申し訳ない、失礼します」
静かな教室の中、数多くの生徒たちが座っている。その中央に、目立つように立つロン毛の青年が教卓の前にいる。
「初めまして、中学棟1年Bクラスの担任、ローザと申します」
ローザ先生はゆっくりと手を動かしながら、教室を見回した。
「早速だが、ガルルの席はあれだ」
俺は驚いた。この先生、ガルル王子を「王子」ではなく、あくまで「ガルル」と呼ぶんだ。
平等に接しようとするその態度が意外だった。
ローザが指を差した先には、教室の窓際で頬杖をつきながら鋭い目つきで外を見ている少年と、その隣で教科書に向かうショートカットの少女が座っていた。
「君がガルル王子か?」
俺が尋ねると、少年は一瞬顔を上げて、ぶっきらぼうに答えた。
「…あ? なんだよ」
生意気なクソガキじゃねぇか。
「そして、君がサナ王女」
「話しかけないでください、授業中ですよ」
こいつらと過ごすことになるのかと思うと、少し憂鬱になった。
ローザは静かに俺に向き直り、言った。
「では、探偵さん。短い期間ですが、よろしくお願いしますね」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
だが、やるしかない。
やりきらなければならない。