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第43話

一週間後、大魔術学校ルーン 大広間


この学園に来てから一週間。

幸いなことに、いまのところ王子たちに危険は及んでいない。だが、平穏という言葉が似合わない世界であることに変わりはなかった。


「おい、見ろよ。人間がいるぞ(笑)」


乾いた嘲笑が響いた。

声の主は、腕に白いバンドを巻いた三人の学生。

どれも、どこか鼻につく雰囲気を漂わせている。


「あ? なんだよ、お前ら」


俺――浪野悠が鋭く言い返すと、彼らの顔から笑みが消えた。


「なんだ、その言い方は。家畜のくせに」


目が変わった。途端に、三人は腰に差していた剣に手をかけた。


「俺たちは貴族だぞ? 家畜風情が、この学園に足を踏み入れたことを後悔させてやるよ、探偵」


……なるほど。白いバンド。あれは、家系による特権階級を示す印か。エルフの中でも、より“選ばれし血筋”ってわけだな。


「へぇ……やるなら来いよ。後悔すんのはそっちの方だ」


「おらぁッ!」


ひとりが叫び、剣を振り上げた。

風を裂いて、刃が俺の首元に向かってくる――。


「おっと」


身をひるがえし、ぎりぎりでかわす。剣筋を読んだ上での、最小限の動作だった。


「バカタレがぁッ!!」


拳が鳴る。

鈍い音を立てて、俺の拳がそいつの顎をとらえた。


「ぐっ……!」


そのまま胸ぐらを掴み上げて――。


「オラァ!」


――ドゴッ、ドゴッ!


拳を叩き込む。怒りでも義憤でもなく、ただ的確に、的確に潰す。


「お、おい! よせっ!」


残りの二人が後ずさりながら叫んだ。


「次は……お前ら二人だなぁ」


低く、冷たい声で睨みつけると、二人の顔がみるみる青ざめた。


「わ、わるかった! な? だから、許してくれ!」


捨て台詞もなく、貴族の学生たちは逃げるように大広間を後にした。


「すたたたたっ!」


……小物だったな。


「……あんた、なかなかやるな」


静かに近づいてきたのはカイラだった。

その瞳に浮かんでいたのは、驚きというよりも、どこか感心の色だった。


「仕事柄、こういう輩とやりあうのは日常みたいなもんでな」


「さすが探偵だよ」


と、そこへ――。


「おーい! カイラー! そろそろ六時間目始まるよー! 一緒に行こー!」


アリスの声が広間に響いた。

無邪気に手を振りながら駆け寄ってくる。


「もうそんな時間か。わかった、行こう」


カイラは悠に向き直り、声を潜める。


「そうそう、クライスはこれから二週間、ハッタン王国へ会談に向かう。だが、この期間に海賊どもが襲撃を仕掛けてくる可能性が高い」


「……つまり、その間の警護任務ってことか」


「頼む。お前にしか任せられない」


悠はひとつ頷いた。


「任せてくれ。絶対に、やらせはしない」

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