ハッタン王国・城門前
ヒューーーッ……
鋭い砂風が視界を削る中、フロスト王を乗せた馬車を先頭に、私とメント、クリスの三人を乗せた馬車列が砂の大地を進んでいく。
「もう着くぞ!」
フロスト王が叫んだ。
それと同時に、馬車がガクンと揺れて止まり、目の前に赤錆びたような巨大な扉が姿を現した。
――ゴゴゴゴゴ……
不気味な音を立てて、大扉がゆっくりと開く。
風と共に吹き抜けてきた砂埃が、また視界を奪った。
「結界を張れ!」
フロスト王の号令に、護衛の兵士たちが一斉に門に向かって両腕を伸ばす。
瞬間、淡く揺れる魔法陣が宙に浮かび、城全体が結界の光に包まれた。
「凄い砂嵐だったな。貴国はいつもこうなのか?」
私が問いかけると、フロストは誇らしげに笑んだ。
「そうだ。我がハッタン王国は、《砂の獣バース》の加護により、外敵の侵入を許さぬ。代償として、この地は常に砂に閉ざされることとなった」
砂と引き換えに守られた王国――
その契約が、まさにこの国の本質なのだ。
「おおお! ようやく到着したようだな、盟友よ!」
豪快な声とともに、城からひときわ目立つ男が姿を現した。
赤いコートに鉄槌を背負い、口元には逞しい赤ひげをたくわえている。
「ダイカン……君も、もう到着していたか」
クライスが目を細めて微笑んだ。
かつて――
二十年前、彼とダイカンは共に魔王を討ち果たし、世界に名を轟かせた英雄同士だった。
「ふははは! 久しいな!」
ダイカンは陽気に笑いながら、クライスの肩を豪快に叩く。
その一撃で、クライスの体がわずかに揺れた。
「フロスト陛下、会談の準備が整いました」
兵士の報告に、フロストは頷く。
「うむ……では、両陛下、それに護衛の諸君、ご苦労だった。さあ、城へ入ろう」
同時刻――ハッタン王国・城下町。
砂の結界で守られた都市では、商人たちの声が飛び交い、にぎわいを見せていた。
とある果物屋の店先で、木槌を背負った中肉の男が、じっくりとリンゴをかじっている。
シャリ……シャリ……。
やがて、芯まで食べ終えると、男は静かに立ち上がった。
彼の視線の先には、遠くにそびえる王城――。
「へっへっへ……王様たちが揃ったってわけか」
男はカバンから一つの帽子を取り出した。
それは――黒地に髑髏のマークが描かれた“海賊帽”。
そして、静かに――嵐の予感とともに、俺たちの会談が始まった。