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第45話

ハッタン王国・城門前


ヒューーーッ……

鋭い砂風が視界を削る中、フロスト王を乗せた馬車を先頭に、私とメント、クリスの三人を乗せた馬車列が砂の大地を進んでいく。


「もう着くぞ!」


フロスト王が叫んだ。

それと同時に、馬車がガクンと揺れて止まり、目の前に赤錆びたような巨大な扉が姿を現した。


――ゴゴゴゴゴ……


不気味な音を立てて、大扉がゆっくりと開く。

風と共に吹き抜けてきた砂埃が、また視界を奪った。


「結界を張れ!」


フロスト王の号令に、護衛の兵士たちが一斉に門に向かって両腕を伸ばす。

瞬間、淡く揺れる魔法陣が宙に浮かび、城全体が結界の光に包まれた。


「凄い砂嵐だったな。貴国はいつもこうなのか?」


私が問いかけると、フロストは誇らしげに笑んだ。


「そうだ。我がハッタン王国は、《砂の獣バース》の加護により、外敵の侵入を許さぬ。代償として、この地は常に砂に閉ざされることとなった」


砂と引き換えに守られた王国――

その契約が、まさにこの国の本質なのだ。


「おおお! ようやく到着したようだな、盟友よ!」


豪快な声とともに、城からひときわ目立つ男が姿を現した。

赤いコートに鉄槌を背負い、口元には逞しい赤ひげをたくわえている。


「ダイカン……君も、もう到着していたか」


クライスが目を細めて微笑んだ。


かつて――

二十年前、彼とダイカンは共に魔王を討ち果たし、世界に名を轟かせた英雄同士だった。


「ふははは! 久しいな!」


ダイカンは陽気に笑いながら、クライスの肩を豪快に叩く。

その一撃で、クライスの体がわずかに揺れた。


「フロスト陛下、会談の準備が整いました」


兵士の報告に、フロストは頷く。


「うむ……では、両陛下、それに護衛の諸君、ご苦労だった。さあ、城へ入ろう」


同時刻――ハッタン王国・城下町。


砂の結界で守られた都市では、商人たちの声が飛び交い、にぎわいを見せていた。

とある果物屋の店先で、木槌を背負った中肉の男が、じっくりとリンゴをかじっている。


シャリ……シャリ……。


やがて、芯まで食べ終えると、男は静かに立ち上がった。

彼の視線の先には、遠くにそびえる王城――。


「へっへっへ……王様たちが揃ったってわけか」


男はカバンから一つの帽子を取り出した。

それは――黒地に髑髏のマークが描かれた“海賊帽”。


そして、静かに――嵐の予感とともに、俺たちの会談が始まった。

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