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第52話

 「きゃあああああああああああ!!!」


 悲鳴がビルの谷間を突き抜け、夜の池袋に響き渡った。


 「がああああああ!!!」


 獣のような雄叫びを上げ、ティードは群衆へと跳び込んだ。牙をむき、腕を振るい、喰らい尽くす。男も女も、老いも若きも、肉塊と化して次々と血に沈んでいった。


 喰らい、喰らい、喰らい尽くす。


 一瞬にして、繁華街は血濡れの地獄と化した。


 「……何を考えてやがる……」


 ダグは交差点の中心で立ち尽くしていた。視線の先で、人々の命がまるで紙くずのように引き裂かれていく。理不尽な暴力。狂気の宴。


 「ドルフィンズ!」


 彼の声に応え、水の精霊たちが路面の水分を巻き上げ、透明なイルカの群れとしてティードを取り囲んだ。


 「てめぇの相手はこの俺だ。投獄? 冗談じゃねぇ……てめぇは今ここで、俺が処刑する!」


 「図に乗るなよ、槍兵ごときが――!」


 再びティードは咆哮し、筋肉が隆起し、獣へと変貌する。毛並みの荒々しい狼の姿となったその体からは、人智を超えた力の波動が滲み出ていた。


 「へぇ……だったら見せてもらおうか、獣の本能とやらの力をよ!」


 次の瞬間、ティードは一気に距離を詰めた。轟音のような足音。巨大な拳がダグめがけて振り下ろされる。


 「速いな! ドルフィンズ!」


 イルカの水盾が拳を受け止める。衝撃は交差点全体に強風となって吹き荒れ、街路樹がなぎ倒され、人々が空中へと吹き飛ばされた。


 「効かん!」


 ティードの腕が水盾を貫き、風圧で舗道が砕け散る。


 「げ、やっぱそうなるよな! 知ってた!」


 冷や汗を浮かべながらも、ダグはとっさに叫んだ。


 「エスケープ!」


 その身体が一閃、信号機の上へと瞬間移動する。


 「どうした? さっそく逃げ腰か?」


 「いや……まだだ」


 ダグの目に炎のような光が宿る。再び両手で槍を構えた瞬間、槍全体に水の膜がまとわりついた。魔力の波動が空気を震わせる。


 「水の魔法で槍を強化したつもりか?」


 「つもりじゃねぇよ――やってみせる!」


 ダグの一撃がティードの右足をかすめる。鋭い切っ先が肉を裂く。


 「ぬるい!」


 返す手で、ティードはダグの首を鷲掴みにした。


 「なっ……!?」


 そのまま、ティードはダグの身体を地面へと叩きつける。


 ドゴォォン!!


 コンクリートが裂け、蜘蛛の巣のような亀裂が交差点中に広がった。


 「ぐはああああ!!」


 血を吐き、ダグは地に伏す。骨が砕け、意識が薄れていく。


 「終わりだ、槍兵」


 ティードは腰からショートバレルの散弾銃――ソードオフショットガンを引き抜き、無慈悲に構えた。


 「……へ、へへ……こりゃ……まずったなぁ……」


 歪んだ笑みを浮かべながら、ダグは最後の力で呟く。


 「くそ……すまねぇ……クライス……おれは……おれは務めを果た――」


 バァン!!


 弾丸が放たれた。


 顔面に命中した散弾は、容赦なくダグの頭部の三分の一を吹き飛ばした。


 熱と煙の残滓が、冬の夜空に溶けて消えた。



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