「きゃあああああああああああ!!!」
悲鳴がビルの谷間を突き抜け、夜の池袋に響き渡った。
「がああああああ!!!」
獣のような雄叫びを上げ、ティードは群衆へと跳び込んだ。牙をむき、腕を振るい、喰らい尽くす。男も女も、老いも若きも、肉塊と化して次々と血に沈んでいった。
喰らい、喰らい、喰らい尽くす。
一瞬にして、繁華街は血濡れの地獄と化した。
「……何を考えてやがる……」
ダグは交差点の中心で立ち尽くしていた。視線の先で、人々の命がまるで紙くずのように引き裂かれていく。理不尽な暴力。狂気の宴。
「ドルフィンズ!」
彼の声に応え、水の精霊たちが路面の水分を巻き上げ、透明なイルカの群れとしてティードを取り囲んだ。
「てめぇの相手はこの俺だ。投獄? 冗談じゃねぇ……てめぇは今ここで、俺が処刑する!」
「図に乗るなよ、槍兵ごときが――!」
再びティードは咆哮し、筋肉が隆起し、獣へと変貌する。毛並みの荒々しい狼の姿となったその体からは、人智を超えた力の波動が滲み出ていた。
「へぇ……だったら見せてもらおうか、獣の本能とやらの力をよ!」
次の瞬間、ティードは一気に距離を詰めた。轟音のような足音。巨大な拳がダグめがけて振り下ろされる。
「速いな! ドルフィンズ!」
イルカの水盾が拳を受け止める。衝撃は交差点全体に強風となって吹き荒れ、街路樹がなぎ倒され、人々が空中へと吹き飛ばされた。
「効かん!」
ティードの腕が水盾を貫き、風圧で舗道が砕け散る。
「げ、やっぱそうなるよな! 知ってた!」
冷や汗を浮かべながらも、ダグはとっさに叫んだ。
「エスケープ!」
その身体が一閃、信号機の上へと瞬間移動する。
「どうした? さっそく逃げ腰か?」
「いや……まだだ」
ダグの目に炎のような光が宿る。再び両手で槍を構えた瞬間、槍全体に水の膜がまとわりついた。魔力の波動が空気を震わせる。
「水の魔法で槍を強化したつもりか?」
「つもりじゃねぇよ――やってみせる!」
ダグの一撃がティードの右足をかすめる。鋭い切っ先が肉を裂く。
「ぬるい!」
返す手で、ティードはダグの首を鷲掴みにした。
「なっ……!?」
そのまま、ティードはダグの身体を地面へと叩きつける。
ドゴォォン!!
コンクリートが裂け、蜘蛛の巣のような亀裂が交差点中に広がった。
「ぐはああああ!!」
血を吐き、ダグは地に伏す。骨が砕け、意識が薄れていく。
「終わりだ、槍兵」
ティードは腰からショートバレルの散弾銃――ソードオフショットガンを引き抜き、無慈悲に構えた。
「……へ、へへ……こりゃ……まずったなぁ……」
歪んだ笑みを浮かべながら、ダグは最後の力で呟く。
「くそ……すまねぇ……クライス……おれは……おれは務めを果た――」
バァン!!
弾丸が放たれた。
顔面に命中した散弾は、容赦なくダグの頭部の三分の一を吹き飛ばした。
熱と煙の残滓が、冬の夜空に溶けて消えた。