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第54話

 会談を終え、クライスたちはハッタン城の大扉をくぐった。


 「ハッタン王国とも、これでおさらばだな」とクリスが肩をすくめて言う。


 「またあの砂嵐を通らなきゃいけないなんて……勘弁してくださいよ」と、メントが渋い顔でぼやいた。


 クライスは微笑んで、顎をしゃくった。「ああ、帰ろう。皆の者、出航の準備を!」


 「ハッ!」

 兵士たちが号令に応じ、馬車の準備に走り出す。そのとき――


 キーン――!


 鋭い金属音のような衝撃が、クライスの脳を貫いた。


 「……クライス王、聞こえますか?緊急事態です」

 声が響く。カイラの魔力通信だ。

 「サダベル学園長とティードが学園を襲撃しています。直ちに帰国してください!」


 「……何があった?」とクリスが眉を寄せる。


 クライスはすぐさま声を張った。「今すぐ帰国する! 海賊共が学園を襲っているとのことだ。メント、貴様の強化魔法で船の速度を最大まで上げろ!」


 メントはすぐさま敬礼した。「承知しました、我が王よ」


 *


 《魔術大学校ルーン・中庭》


 サダベルの腹に、リヴァイアサンの牙が深く食い込んでいた。


 「ぐふぅ……さすがは水神を操る最強の戦力だな……」


 カイラは静かに告げる。「選べ。牢獄か、死か」


 ――この世界の魔物は、魔獣・神獣・神に分けられる。

 その中でも“神”は異質だ。神獣や魔獣とは比にならない力を持ち、各国の政府が厳重な契約のもと兵器として運用している。


 カイラは、そんな神の中でも水神リヴァイアサンと雷神イカリ――二体と契約を交わした、世界初の存在だ。


 契約とは、力で縛るのではない。神の“認可”が必要なのだ。


 「……選択肢はもう一つあるさ。君を殺す!」


 サダベルはそう叫ぶと、右手をリヴァイアサンの口へ向ける。


 「ブレア!」


 ドゴォン――!


 爆発音が響き、リヴァイアサンの顔面が弾け飛んだ。サダベルはその隙を逃さず、燃え盛る神の顎から抜け出して、カイラへと歩み寄る。


 「さぁ、始めようか」


 その身体から、青く光るスライムが滴るように飛び出してくる。


 「……神獣、ブレアスライムか」と、カイラが目を細める。


 「その通り。こいつは触れた物質をすべて溶かす、獰猛な溶岩のスライムだ。人間世界へ渡る前に、この学園を地図から消してやろう」


 「何を考えている! やめろ!」

 カイラは叫び、空に向かって手を伸ばす。


 「イカリ、来い!」


 天空が割れ、雷鳴が轟く。雷神イカリがその巨躯を現した。


 「もう遅い! ブレアスライム、学園を溶かせ!」


 ――ドバァン!


 スライムの体内からあふれ出た溶岩が、津波のように校舎へ押し寄せる。


 青白く燃え上がる建物。逃げ遅れた学生たちの絶叫が空を裂いた。


 「くそがッ……結界魔法!」

 カイラが魔法陣を展開し、周囲に強力なバリアを張る。


 《ルーン学園・正門》


 「おい……まじかよ……!」


 悠は絶望に立ち尽くした。溶岩は、もはや後方の校舎だけでなく、目の前の空間までも呑み込もうとしている。


 「もう一回繋がれ! リンク!」


 眼前にゲートが開き、悠はその中へと走り込んだ。


 バシャーンッ!


 溶岩がすべてを溶かし、更地と化した学園の上で、カイラは静かに結界を解いた。


 「……学園が……」


 そこに、アレンが走り込んでくる。


 「カイラ! 学生の七割は学園の外に逃がした! だが、残りの三割は……」


 「いい。僕が殺さなかったから、こうなったんだ」


 そのとき――


 「素晴らしい……」

 サダベルが、ゆっくりと拍手を打った。


 「雷神を間近で見られるとはな……想像以上だ、カイラ」


 「……目的はなんだ、学園長」


 「人間世界の支配だ。そのために、ティード海賊団と手を組んだ」


 カイラは鼻で笑った。「聞き飽きた」


 「目的も動機もそれだけだ。今から人間世界へ渡る。まずは日本を火の海にする」


 「ふはは、どうやって? 世界を繋ぐ能力もないくせに」


 「……そろそろ、だな」


 ビュン――!


 サダベルの背後にゲートが顕現する。


 「おい、学園長さんよ! 迎えに来たぜ!」


 レガースの声だ。


 「じゃあな、カイラ。日本が終わったら、次はアルタイル王国だ」


 「だったら、僕も連れてってもらおうか」


 「……は?」


 その瞬間、カイラの姿が掻き消え、レガースの前に現れた。


 ドゴッ!


 拳が炸裂し、レガースの顔面を叩き潰すと、カイラはそのままゲートへと駆け込んだ。


 「走り抜ける!」


 アレンもカイラの背中を追って飛び込んでいく。


 ――池袋。

 すでにティードたちが暴れ、特殊部隊SATと激しい抗争を繰り広げていた。


 レガースが吹き飛ばされる。


 サダベルはふっと笑った。「私のブレアスライムに手も足も出なかった者たちが、この私を止められるとでも?」


 「止めなきゃ、あんた来るだろ?」

 カイラが笑い返す。


 「ぶふっ……!」

 アレンは噴き出しかけた笑いを手で押さえた。

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