池袋――血と悲鳴の交差点。
「きゃあああああっ!!」
耳を劈く悲鳴が、血に濡れた路面を震わせた。無数の死体が転がる異常事態の中で、ティードが咆哮を上げた。
「ぐおおおあああっ!!」
SAT部隊と獣のような海賊頭領が激しく交戦する。炎と銃声が街を飲み込んでいた。
その頭上。池袋上空をヘリコプターが旋回していた。
「信じられない光景です!狼です!絶滅したはずの狼が警察隊と交戦しています!この男は――」
キャスターの言葉が終わるより早く、空中に一陣の風が走った。黒衣の女――ヴェンデッタが宙を滑るように浮遊し、ヘリに並んで叫んだ。
「邪魔よ、ツンドラ!」
瞬間、巨大な針状の物体が虚空から現れ、ヘリの胴体を貫いた。
「うわあああああっ!」
断末魔と共に、ヘリは近くのビルに激突。大爆発を起こした火柱が夜空を照らす。
俺はその光景を、唖然としながら見つめていた。
「なんなんだよ、これ……。奴ら、ついに東京まで攻め込んできやがった……」
とっさに身を引き、異世界から再び現実世界へ逃げ込んでいた俺は、思わず呟いた。
「海賊どもに、サダベルまで……まさか、あいつが学園を……?」
だがすぐに、ある可能性が脳裏をよぎる。
「待てよ。幹部どもは池袋に集まってる。ならケッカイ島の警備は手薄なはず……!」
今なら、誘拐された人々を救えるかもしれない。そう思った瞬間、俺は携帯を取り出し、釜野へ電話をかけた。
深夜 警視庁前
「悠か!?今どこにいるんだ!無事なんだな!?」
釜野の声がすぐに返ってきた。
「聞いてくれ。今なら本当のことが話せる。誘拐された人たちを救えるチャンスなんだ!」
「は?こんな時に何を……!」
「説明はあとだ。今すぐ部隊を動かしてくれ。警視庁前で落ち合おう!」
そう言って通話を切ると、俺は全速力で警視庁へと走った。
門の前で、釜野が俺を待っていた。その背後には警察隊が列を成している。
「来たか」
「こんなに……局長の許可は?」
釜野はわずかに目を伏せ、低く答えた。
「それが……局長がどこにもいないんだ。まるで消えたように」
「今はそんなこと言ってる場合じゃない。あの化け物どもが現実世界にいる今が最大のチャンスなんだ。終わった後、全部話す。だから、今は俺を信じてくれ!」
釜野はしばし無言だったが、やがてふっと笑って俺の肩を叩いた。
「全く、お前ってやつは……でも、今は俺がいる。信じるよ」
「ありがとう」
そして、俺は一歩前に出て言った。
「じゃあ、これからすることに驚くなよ」
「は?」
「リンク!」
右腕を前に突き出すと、空間が歪み、ゲートが現れた。
警察隊がざわつき、釜野が目を見開く。
「な、なんだこれは……!?」
「行くぞ。俺についてこい」
午前2時30分 異世界・スモーク山 小屋前
重たい夜の空気が肌にまとわりつく。ゲートを抜け、俺たちは異世界に足を踏み入れた。
小屋の扉を激しく叩く。
「爺さん!俺だ、悠だ!」
扉が開き、懐かしい顔が現れる。
「おお、悠。生きておったか」
「手短に言う!海賊たちは今、現実世界で交戦中だ!ケッカイ島に乗り込んで人間たちを救いたい。力を貸してくれ!」
コロウはしばし黙した後、言った。
「お前は、やはりあの人間に似ている」
「は?」
「いや、昔の話じゃ。今は関係ない」
棚から小銃を引き抜き、コロウは外へ出た。
「いいだろう。手を貸そう」
彼の手を握り、俺は静かに礼を述べた。
「本当に、ありがとう」
午前3時 ケッカイ島
ざあああああ……と豪雨の中、我々は砂浜を踏みしめて進んだ。雨が視界を遮る。
「ここに……誘拐された人たちが……」
釜野が濡れた顔を手でぬぐいながら呟いた。
「幹部はおらんが、下っ端はうようよおるぞ。わしが先導する。ついてこい」
コロウが小銃を構え、森の中へと進み始めた。
やがて、島の森の入口が見える。そこには警備中の下っ端ども。
「……あ?なんだあれ……」
「おい、探偵どもが攻めてきたぞお!!」
警報のベルがカンカンカン!と鳴り響き、海賊たちが一斉にこちらへ殺到してくる。
「早速バレたな。どうする」
「やることは変わらねえ。全員地獄に送ってやる」
俺はリボルバーを構える――が。
「……あっ」
――弾が、ない。
戦いの中で、使い果たしてしまったのだ。
「ほれ、手を出せ」
コロウが手を差し出した。すると――
彼の手の平から、ぽろぽろと銃弾が零れ落ちた。
「なっ……これ、本物の銃弾……!?どうやって……」
「これがわしの
「……ありがてぇ!」
俺はその銃弾をポケットに詰め込み、拳銃へと装填した。
その時――
「そこにいるぞお!矢を放てぇっ!」
海賊どもが殺到してくる。
「始めるぞ――救出作戦だ!」