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第55話

 池袋――血と悲鳴の交差点。


 「きゃあああああっ!!」


 耳を劈く悲鳴が、血に濡れた路面を震わせた。無数の死体が転がる異常事態の中で、ティードが咆哮を上げた。


 「ぐおおおあああっ!!」


 SAT部隊と獣のような海賊頭領が激しく交戦する。炎と銃声が街を飲み込んでいた。


 その頭上。池袋上空をヘリコプターが旋回していた。


 「信じられない光景です!狼です!絶滅したはずの狼が警察隊と交戦しています!この男は――」


 キャスターの言葉が終わるより早く、空中に一陣の風が走った。黒衣の女――ヴェンデッタが宙を滑るように浮遊し、ヘリに並んで叫んだ。


 「邪魔よ、ツンドラ!」


 瞬間、巨大な針状の物体が虚空から現れ、ヘリの胴体を貫いた。


 「うわあああああっ!」


 断末魔と共に、ヘリは近くのビルに激突。大爆発を起こした火柱が夜空を照らす。


 俺はその光景を、唖然としながら見つめていた。


 「なんなんだよ、これ……。奴ら、ついに東京まで攻め込んできやがった……」


 とっさに身を引き、異世界から再び現実世界へ逃げ込んでいた俺は、思わず呟いた。


 「海賊どもに、サダベルまで……まさか、あいつが学園を……?」


 だがすぐに、ある可能性が脳裏をよぎる。


 「待てよ。幹部どもは池袋に集まってる。ならケッカイ島の警備は手薄なはず……!」


 今なら、誘拐された人々を救えるかもしれない。そう思った瞬間、俺は携帯を取り出し、釜野へ電話をかけた。


 深夜 警視庁前


 「悠か!?今どこにいるんだ!無事なんだな!?」


 釜野の声がすぐに返ってきた。


 「聞いてくれ。今なら本当のことが話せる。誘拐された人たちを救えるチャンスなんだ!」


 「は?こんな時に何を……!」


 「説明はあとだ。今すぐ部隊を動かしてくれ。警視庁前で落ち合おう!」


 そう言って通話を切ると、俺は全速力で警視庁へと走った。


 門の前で、釜野が俺を待っていた。その背後には警察隊が列を成している。


 「来たか」


 「こんなに……局長の許可は?」


 釜野はわずかに目を伏せ、低く答えた。


 「それが……局長がどこにもいないんだ。まるで消えたように」


 「今はそんなこと言ってる場合じゃない。あの化け物どもが現実世界にいる今が最大のチャンスなんだ。終わった後、全部話す。だから、今は俺を信じてくれ!」


 釜野はしばし無言だったが、やがてふっと笑って俺の肩を叩いた。


 「全く、お前ってやつは……でも、今は俺がいる。信じるよ」


 「ありがとう」


 そして、俺は一歩前に出て言った。


 「じゃあ、これからすることに驚くなよ」


 「は?」


 「リンク!」


 右腕を前に突き出すと、空間が歪み、ゲートが現れた。


 警察隊がざわつき、釜野が目を見開く。


 「な、なんだこれは……!?」


 「行くぞ。俺についてこい」


 午前2時30分 異世界・スモーク山 小屋前


 重たい夜の空気が肌にまとわりつく。ゲートを抜け、俺たちは異世界に足を踏み入れた。


 小屋の扉を激しく叩く。


 「爺さん!俺だ、悠だ!」


 扉が開き、懐かしい顔が現れる。


 「おお、悠。生きておったか」


 「手短に言う!海賊たちは今、現実世界で交戦中だ!ケッカイ島に乗り込んで人間たちを救いたい。力を貸してくれ!」


 コロウはしばし黙した後、言った。


 「お前は、やはりあの人間に似ている」


 「は?」


 「いや、昔の話じゃ。今は関係ない」


 棚から小銃を引き抜き、コロウは外へ出た。


 「いいだろう。手を貸そう」


 彼の手を握り、俺は静かに礼を述べた。


 「本当に、ありがとう」


 午前3時 ケッカイ島


 ざあああああ……と豪雨の中、我々は砂浜を踏みしめて進んだ。雨が視界を遮る。


 「ここに……誘拐された人たちが……」


 釜野が濡れた顔を手でぬぐいながら呟いた。


 「幹部はおらんが、下っ端はうようよおるぞ。わしが先導する。ついてこい」


 コロウが小銃を構え、森の中へと進み始めた。


 やがて、島の森の入口が見える。そこには警備中の下っ端ども。


 「……あ?なんだあれ……」


 「おい、探偵どもが攻めてきたぞお!!」


 警報のベルがカンカンカン!と鳴り響き、海賊たちが一斉にこちらへ殺到してくる。


 「早速バレたな。どうする」


 「やることは変わらねえ。全員地獄に送ってやる」


 俺はリボルバーを構える――が。


 「……あっ」


 ――弾が、ない。


 戦いの中で、使い果たしてしまったのだ。


 「ほれ、手を出せ」


 コロウが手を差し出した。すると――


 彼の手の平から、ぽろぽろと銃弾が零れ落ちた。


 「なっ……これ、本物の銃弾……!?どうやって……」


 「これがわしの魔法無限弾薬じゃ。魔力が続く限り、あらゆる銃の弾を望んだ数だけ生み出せる」


 「……ありがてぇ!」


 俺はその銃弾をポケットに詰め込み、拳銃へと装填した。


 その時――


 「そこにいるぞお!矢を放てぇっ!」


 海賊どもが殺到してくる。


 「始めるぞ――救出作戦だ!」

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