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第67話

魔国ジーン タワー五十階・王室


 漆黒の玉座の前、ジーン王は怒声を上げていた。


 「何をしておる! 兵士をもっと動員せんか!!」


 窓の外には、街中で繰り広げられる火災と血煙。中国マフィアとロシアンマフィアによる無差別虐殺が王都を包んでいた。兵士たちは混乱し、統率など崩壊している。


 そんな中、背後の扉が静かに開いた。高笑いのような声が、王の耳に届いた。


 「ふふ、困ってるようね、国王さん」


 ジーンは振り向きざまに絶叫した。


 「貴様は……ヴェンデッタか!?」


 真紅のローブをまとった女魔術師が、無表情で右腕を振り上げる。


 「――最奥呪法、《スピア》」


 空間が歪んだかと思えば、鋭い黒い槍が虚空から形成され、轟音と共にジーンへと放たれた。


 「なっ……!」


 王は咄嗟に身を翻し、空中に飛び上がってそれを回避。槍は王座を貫き、石壁へめり込んで炸裂した。


 「裏切る気か、貴様ッ! 喰らえ、爆発魔法!」


 慌てて放たれた魔法は、力なく輝く小さな火球だった。ヴェンデッタはそれを見下ろすように呟いた。


 「呪法、《ミラージュ》」


 前方に立ち現れた巨大な魔法陣が盾のように浮かび上がり、火球を受け止める。そして、反射――。


 「まさか……!? うおおおおっ!!」


 火球は逆流し、王の胸元で炸裂した。轟音と閃光。爆煙の中で、ジーンの身体は宙に舞い、地に叩きつけられた。すでに息はない。玉座の王は、黒焦げの塊と化した。


 その様子を柱の陰から見ていた一人の男が、そっと姿を現す。


 「やったのか……ヴェンデッタ」


 彼――メントと呼ばれる男は、床に横たわる焼け爛れた死体を見下ろしながら言った。


 「私はただ、この死体が欲しかっただけよ」


 ヴェンデッタは冷たい声でそう告げると、そっと死体に触れた。


 「……そんなもので良ければ差し上げよう。今日からは私が、この崩壊寸前の魔国の王だ」


 メントがそう宣言すると、ヴェンデッタは肩をすくめただけだった。


 「好きにすればいいわ。……じゃあ、幸運を祈る」


 言い残し、彼女は虚空へと溶けるように姿を消した。




 その頃――王城から遠く離れた市街の一角にある、朽ちたバー。その扉が**バタン!**と爆音と共に蹴破られた。


 斧を片手に現れたのは、狂気を纏う男・イザ。目の前の店員が声を発する間もなく、その斧が振り下ろされ、頭蓋を真っ二つに裂いた。


 「酒があるんだろ? だったら、おれらにも出してくれよ!!」


 客たちが悲鳴を上げる中、イザはもう片手に持っていたウージーを振り回し、バン! バン! と立て続けに数名の頭部を吹き飛ばした。


 「みんな、蜂の巣になりなさい♪」


 甲高い声が響き、続けざまにズババババババッ!!

 トンプソンを構えたパクが、カウンターの奥に逃げようとしていたエルフの市民たちを容赦なく撃ち抜いていく。


 「葉巻を」


 指を鳴らすと、背後から少女のような顔立ちの部下――ニムが近づき、黙って葉巻に火を灯した。


 ジュッ、と火が走り、パクはふぅっと紫煙を吐き出した。


 「この先に収容所があるわ。人間の捕虜たちがいる。警備も厳しいでしょうけど……みんな、死なないようについてきてね」


 イザが笑いながら叫んだ。


 「さあ武器を構えろ! 行くぞ、お前らァ!!」

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