荒廃した路地を、イザたちマフィアの一団が血と硝煙の匂いを引き連れて進んでいた。道中では、怯える民間人や応戦するエルフ兵たちが彼らの行く手を阻もうとしたが、いずれも返り血を浴びて倒れ、道端に転がるばかりだった。
「鎧なんてよ……ショットガンでぶち抜けるんだ、意味ねぇよな」
イザが肩に担いだ銃口から立ち上る煙を一瞥し、唾を吐いた。
二ムが淡々と答える。
「でも、あれが奴らにとっては最後の護身グッズらしいよ」
「もう少しで目的地だよ。全員、気を引き締めて」
パクが静かに告げた時、西収容所の門が視界に入った。
――魔国ジーン、西収容所。
その門前には、すでに武装したエルフ兵三十名が待ち構えていた。
「中国マフィアに警告する! 今すぐ投降しろ!」
顔を紅潮させ、猟銃を構える兵士たち。その眼差しは恐怖と焦燥に満ちていた。
「どうする、パク」
ムニョが低く囁いた。
「ふふん、まぁ見てて」
パクは肩に担いでいたRPGをゆっくりと構え、弾を装填した。
「……冗談だろ、まさか……くそ! 全員、爆発魔法の準備をっ!」
その叫びは、轟音にかき消された。
「発射」
ロケット弾が空気を裂き、兵士たちの群れに吸い込まれるように突き刺さった。次の瞬間、轟音と閃光。
爆発と共に彼らの身体は空中に舞い、肉片と骨と臓腑が地面に降り注いだ。
「さあ牢屋を開けていくぞ、ついてこい!」
イザが斧を掲げて叫び、マフィアのメンバーたちが施設内に突入。次々に収容室の扉をこじ開け、捕らえられていた人間たちを解放していった。
「た、助かったの……?」
解放された韓国人の女性が呆然と呟いた。周囲では泣き叫ぶ声、戸惑う声が入り混じる。
「全員、聞いてくれ!」
イザの怒号がそれをかき消した。
「俺たちは中国マフィア・ジョンイルだ。お前たちを助けに来た!」
彼の声には怒りと情熱がこもっていた。
「お前たちは、この地に連れて来られるまでに、酷い仕打ちを受けたはずだ! だったら仕返ししようぜ! 魔国? 異世界? そんなもんごと乗っ取ってやるんだ!」
ざわめきが広がった。戸惑っていた捕虜たちの中に、やがて火がともる。
「幸運なことに、この国には武器があちこちに転がってる。この猟銃で奴らの首を飛ばしてやろうじゃねぇか!」
男の一人――ロシア出身の捕虜が、震える声で応じた。
「そ、そうだ……奴らを殺して……家族の元へ帰るんだ!」
「その意気だ!」
イザは吼えるように続けた。
「国籍なんて関係ない! 俺たちは“人間”として団結するんだ! 奴らを根絶やしにしてやる!」
捕虜たち三十名から怒声にも似た歓声が上がった。興奮と覚悟が混じり合い、空気は一変する。
イザはその勢いのまま、武器庫からライフルや弾薬を分配し、解放された人々に手渡していった。
「次は北だ! 捕虜をもっと解放するぞ、ついて来い!」
狂気と希望を混ぜ合わせたような行進が、再び始まった。彼らの標的は、北、南、そして東――すべての収容所に囚われた人間たち。マフィアの旗のもとに、人間の反撃が始まろうとしていた。