「貴様が……母を殺した、憎むべき悪魔……!」
カイラの声が怒りに震える。魔王は、その憎悪を真正面から浴びながらも、ヘラヘラと唇を歪め、薄ら笑いを浮かべたまま彼女を見つめていた。
「召喚術——リヴァイアサン、イカリ、フレイム、サイクロン、ダイス!」
その瞬間、カイラの周囲が白く眩く輝き始める。空が一気に黒く染まり、大地は唸るように轟いた。
「全部の神様か!?」悠が思わず声を上げた。
カイラは自らが契約したすべての神々を、この場に召喚しようとしていた。
空が裂け、次々と神々が舞い降りる。雷と炎、氷と風、古代の力が混ざり合い、現世に降臨するその様は、まるで天地開闢の光景だった。
カイラは冷たく命じる。「撃ち落とせ。
無数の神々が、細く鋭利な光線を放ち、一斉に魔王へと浴びせた。
異世界における魔法光線は、細ければ細いほど威力が増すという特性を持つ。そしてこの《エンド光線》は、必中必殺。受けた者は確実に死に至る——細く鋭いそれは、文字通りこの世で最強の攻撃手段と呼ばれていた。
「ぎゃああああああああああああ!!!!」
魔王が絶叫し、身をよじらせ、のたうつ。
「今だ!デジャヴ総員、総攻撃を仕掛けろ!」
カイラの号令と同時に、仲間たちが次々と飛び出した。
「よっしゃきたーッ!」
エリーが拳を構え、地を蹴って一直線に魔王へと殴りかかる。
「強化魔法、バースト! おらぁっ!」
ギャバットは咆哮を上げ、巨大な鉄槌を振り下ろした。
「ふぅん……!」
クライスもまた剣を構えて駆けつけ、鋭い斬撃を繰り出す。
「久しぶりだな……決着をつけよう」
魔王は苦悶の叫びを上げ、全身から黒煙を吹き上げた。
「なんかわからんけど、いいぞ。これで魔王は死ぬ!」悠がそう呟いたそのとき——
突然、空間が歪んだ。
「やってくれるな、最強の戦力……火炎魔法!」
転移してきたのは、白衣を纏った一人の男。メントと名乗ったその男は、医者の風貌をしていたが、明らかにただの人間ではなかった。彼が放った火球は、カイラの胸元に直撃する——が、煙の中から彼女が無傷で現れる。
「……お前、誰だよ」
「ただ医者の皮を被っただけの魔族さ」メントはニヤリと口角を吊り上げた。
カイラは鋭く睨んだ。「で? 何の計算もなしに出てきたわけじゃないだろ?」
「君の父親はクライス王だ」
メントは不意に、言葉の刃を放った。
その一言に、カイラの動きが一瞬止まる。その刹那の隙を見逃さず——
「グランド! タイムトラベルだぁあああ!!!」
瀕死の魔王が最後の力を振り絞り、笑いながら詠唱を始める。
「げへへ……ぐがげげがぐげ!」
カイラの目の前に巨大なゲートが出現した。その先に広がっていたのは、視界のすべてを覆い尽くす、暴風の吹き荒れる謎の空間だった。
「
メントが再び詠唱し、猛烈な突風が吹き上がる。
「オイ、まじか……くそっ!」
風に押されるようにして、カイラの体がゲートへと吸い込まれていく。
「カイラッ!!」ギャバットが叫ぶ。
振り返ったカイラは、必死に手を伸ばしながら叫んだ。「ギャバット! あとは頼む!」
その声を最後に、彼女の姿はゲートの奥へと消えていった。
「カイラァァァァァァァアアアアアアア!!!」
クライスが絶叫し、怒りと悲しみをそのまま剣に叩き込む。
「貴様ァアアアアアアア!!」
瀕死の魔王に向かって、剣を振り上げ、ザクッ! ザクッ! と何度も眼球を突き刺した。
「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
最後の咆哮とともに、剣をその首に突き立て——斬り裂いた。
魔王は絶命し、長き因縁は、血の中で静かに終焉を迎えた。