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第76話

 同刻 ボルケーノ王国・港街


 暗い港の空気を切り裂くように、金属の鎖が地面を擦る音が響く。ティードは、拘束した兵士十名を引き連れ、堂々と港を進んでいた。足取りに迷いはない。彼の目的はただひとつ――かつての仲間たちの解放。


 「国王、時間がない。さっさと解放しろ」


 鋭く吐き捨てるようなティードの言葉に、出迎えたボルケーノ国王ダイカンは鼻を鳴らした。


 「どれが望みだ」


 「モンキーヘッド」


 その名が呼ばれた瞬間、城の地下牢から鉄格子の軋む音がした。ほどなくして現れたのは、異形の怪物――頭蓋骨に四本の脚が生えた異形の魔物だった。


 「へへへぇ! じゃあな、お前ら!」


 獰猛な笑みを浮かべながら、モンキーヘッドが足音も軽やかに走り出す。口元から、いつ爆発魔法が飛び出してもおかしくない。


 「ウッドマン」


 続けて、鈍重な地響きが牢獄から響く。姿を現したのは、大木のような体躯をもつ魔獣。伸びた枝がうねるように揺れ、まるで周囲を威嚇するようだった。


 「ぐおおおおッ!!」


 その咆哮が城壁を震わせる。


 「ロック」


 「サンキュー、船長! これで自由だぜ!」


 最後に姿を現したのは人間の男だった。ロック――岩石魔法を操り、自らの体を岩のように硬化させる戦士。今は両手に担いだ巨大な木を軽々と振り回し、まるで自分の腕の延長であるかのように扱っていた。


 ――それが今のティードに残された、最後の戦力だった。


 かつての精鋭はもういない。ここにいるのは、かろうじて生き延びた者たち。それでもティードはこの仲間たちに賭けるしかなかった。彼らが死ねば、もう後はないのだ。


 「これで全部だな」


 ダイカンが静かに言い放つ。ティードが黙って頷くと、ダイカンは顎で兵士たちを示した。


 「さあ、拉致したうちの兵士たちを返してもらおう」


 ティードは無言で鎖を外し、引き連れてきた兵士たちを解放する。


 「ほらよ。返してやる」


 「……約束は果たされたな」


 ダイカンの声に含みはなかった。感謝も怒りもない。ただの事務的な処理だ。


 「お前ら、行くぞ」


 ティードが命じると、モンキーヘッド、ウッドマン、ロックが一斉に動き出す。彼らは港に停泊していた一隻の船に乗り込む。潮風に混じって、鉄と魔力の匂いが漂った。


 港の一角でそれを見つめていた警備兵が小声で問いかける。


 「……行かせてよろしいのですか、陛下?」


 ダイカンは一瞬だけ目を細め、冷ややかに笑った。


 「いい。奴らはこれから“京都”へ行く……メントを殺す気だ。どうせじきに、死ぬ」

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