同刻 ボルケーノ王国・港街
暗い港の空気を切り裂くように、金属の鎖が地面を擦る音が響く。ティードは、拘束した兵士十名を引き連れ、堂々と港を進んでいた。足取りに迷いはない。彼の目的はただひとつ――かつての仲間たちの解放。
「国王、時間がない。さっさと解放しろ」
鋭く吐き捨てるようなティードの言葉に、出迎えたボルケーノ国王ダイカンは鼻を鳴らした。
「どれが望みだ」
「モンキーヘッド」
その名が呼ばれた瞬間、城の地下牢から鉄格子の軋む音がした。ほどなくして現れたのは、異形の怪物――頭蓋骨に四本の脚が生えた異形の魔物だった。
「へへへぇ! じゃあな、お前ら!」
獰猛な笑みを浮かべながら、モンキーヘッドが足音も軽やかに走り出す。口元から、いつ爆発魔法が飛び出してもおかしくない。
「ウッドマン」
続けて、鈍重な地響きが牢獄から響く。姿を現したのは、大木のような体躯をもつ魔獣。伸びた枝がうねるように揺れ、まるで周囲を威嚇するようだった。
「ぐおおおおッ!!」
その咆哮が城壁を震わせる。
「ロック」
「サンキュー、船長! これで自由だぜ!」
最後に姿を現したのは人間の男だった。ロック――岩石魔法を操り、自らの体を岩のように硬化させる戦士。今は両手に担いだ巨大な木を軽々と振り回し、まるで自分の腕の延長であるかのように扱っていた。
――それが今のティードに残された、最後の戦力だった。
かつての精鋭はもういない。ここにいるのは、かろうじて生き延びた者たち。それでもティードはこの仲間たちに賭けるしかなかった。彼らが死ねば、もう後はないのだ。
「これで全部だな」
ダイカンが静かに言い放つ。ティードが黙って頷くと、ダイカンは顎で兵士たちを示した。
「さあ、拉致したうちの兵士たちを返してもらおう」
ティードは無言で鎖を外し、引き連れてきた兵士たちを解放する。
「ほらよ。返してやる」
「……約束は果たされたな」
ダイカンの声に含みはなかった。感謝も怒りもない。ただの事務的な処理だ。
「お前ら、行くぞ」
ティードが命じると、モンキーヘッド、ウッドマン、ロックが一斉に動き出す。彼らは港に停泊していた一隻の船に乗り込む。潮風に混じって、鉄と魔力の匂いが漂った。
港の一角でそれを見つめていた警備兵が小声で問いかける。
「……行かせてよろしいのですか、陛下?」
ダイカンは一瞬だけ目を細め、冷ややかに笑った。
「いい。奴らはこれから“京都”へ行く……メントを殺す気だ。どうせじきに、死ぬ」