「リンク」
呟いた瞬間、視界が歪む。次の瞬間には、俺は京都の崩れかけた廃ビルの中にいた。
瓦礫の間を縫い、急いで窓際に駆け寄る。眼下では、クライスたちが数百の骸骨兵を相手に激しい戦闘を繰り広げていた。
「クソ、遅かったか……!」
肩で息をしながら、腰のホルスターからリボルバーを引き抜いた。カチャリ、とシリンダーを開いて弾を確認する。――残り、5発。予備は、もうない。
バンッ!
突然、耳を劈くような銃声が響いた。頬をかすめる鋭い衝撃――血が一筋、顎を伝って滴る。
「な……!」
思わず身をかがめながら、視線を上げる。向かいの瓦礫の上、スコープ越しに俺を見据える男――名取。
「やぁ。君がここに来るとはね」
「お前は……!」
「地球はもう少しで滅びるらしいからさ。その前に、この国へ少しばかり里帰りしたくなってねぇ」
俺は奥歯を噛みしめた。
「のこのこ戻ってきやがって……誤算だったな。お前はここで死ぬ」
名取の目が細められる。すでに照準は俺の額に向けられていた。
「やってみたまえ」
スナイパーライフルの引き金が引かれる寸前、俺は身体を横に投げ出し、近くの岩陰に転がり込んだ。銃声とともに、粉塵が巻き上がる。
名取も身を引き、瓦礫の壁に身を隠す。互いに視線を交わせぬまま、攻防が始まった。
「クソ……この5発で奴を殺せるか……?」
ひとりごとのように呟いた俺に、名取の声が飛んでくる。
「何をぶつぶつ言ってる?」
バン! 次の銃弾が岩の端を吹き飛ばし、破片が頬を掠めた。
「……もうこの岩も、時間の問題か」
奴に背を向けたまま、脳裏に集中する。リンク――俺の転移能力。それで名取の背後に出られれば、勝機はある。
「……やるしかない、リンク!」
視界が揺れ、次の瞬間には名取のすぐ背後に立っていた。驚愕に振り返る暇すら与えず、俺は奴の首に腕を絡め、羽交い締めにする。
「おぉらッ!」
全身に力を込めて締め上げる。
「ぐ、ぐぁああ!!」
名取の意識がみるみる遠のいていくのがわかった。このままなら、首の骨を折ることすらできる――
「このまま折ってやろうか? あァ?」
しかし、名取は執念で拘束を振りほどいた。そして振り返りざまに拳を叩き込んできた。
「ぐはぁ!」
倒れ込みそうになる身体を、なんとか持ち直す。だが、名取はすでにポケットからナイフを抜き、こちらに向かって駆けてきていた。
「おぉらッ!」
俺も咄嗟にナイフを引き抜き、鋼と鋼が火花を散らす。キィンと甲高い金属音が鳴り響いた。
その隙を見逃さなかった。俺は名取の腹に銃口を押し当て、ためらいなく引き金を引いた。
バァン!
奴の腹に穴が空き、名取は地面に崩れ落ちた。
「じゃあな、殺人鬼。これで終わりだ」
血にまみれた名取の唇が微かに動く。
「……釜野君にも……よろしくね……」
その言葉を聞き終えると同時に、俺はナイフを逆手に構え、迷いなく奴の首に突き立てた。
グサリ。
名取の身体が、最後の震えとともに静かに沈黙した。