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第13話 拝み屋の家系図

 祖母が死んだのは、初雪が降る三日前だった。

 親族が集まり、白い煙の上がる屋敷で、誰もが口を閉ざしていた。

 誰も泣かなかった。誰も語らなかった。

 それは、喪に服していたからではない。

 語ってはいけないことがあると知っていたからだ。

 屋敷の奥、使われていない座敷の床の間に、一枚の古い巻物が掲げられている。

 誰もがそれを見ないふりをした。

 だが悠真だけは、それをじっと見つめていた。

 そこには墨で大きく、こう書かれていた。

 ──封ぜし者に、名を告げるなかれ

 ──名を継ぐ者、己を捨てよ

 ──祠の声を、振り返るな

 葬式の夜。悠真は、祖母の部屋に忍び込んだ。

 部屋の片隅には、鍵のかかった引き出しがあり、その中には何枚もの「手紙」が封筒に収められていた。

 すべて、差出人はない。受取人も書かれていない。

 けれど封を切ると、全ての手紙には一言だけ、同じ文が書かれていた。

 ──わたしはまだ“ここ”にいます。

 その夜。

 屋敷の裏の山から、「風鈴の音」が聞こえた。

 冬だというのに、風はなかった。

 けれど音だけが、澄んで、鳴り響いた。

 チリン……

 悠真はその音に導かれるようにして、裏山の祠へと向かった。

 家の裏の石段を百段ほど登ると、小さな苔むした社がある。

 それが「封じの祠」と呼ばれていることは、昔から聞かされていた。

 中を覗くと、そこには木の札が一枚、差し込まれていた。

“祖母の名前”が記されていた。

 けれどその札は――割れていた。

「……バアちゃん?」

 音もなく、祠の奥から風が吹いた。

 そして、何かが……名を呼んだ。

 ──ゆう、ま……


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