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第2話 宮廷入り

 千紗は不安と憂鬱を抱えながらも、家族や友人たちの励ましを背に、ついに皇宮へ足を踏み入れる日を迎えた。豪華な馬車に揺られる道中、彼女は何度もため息をつき、顔をしかめた。


「側室なんて柄じゃないのに……どうして私が?」


窓の外には、広がる宮廷の敷地が見えてくる。今までの商家での生活とはまるで別世界のような風景に、千紗は言葉を失った。大理石の噴水、手入れの行き届いた庭園、宮廷の中央にそびえる壮麗な宮殿――そのすべてが、現実離れして見えた。


宮廷での初日:圧倒的な華やかさ


馬車が宮廷の門をくぐると、出迎えの侍女たちが列を作って待ち構えていた。豪華な衣装に身を包み、完璧な礼儀作法で一斉に頭を下げるその姿に、千紗は戸惑いを隠せない。


「ようこそ、千紗様。陛下の側室としてお迎えいたします。」


その言葉に千紗は思わず後ずさりしそうになった。「どうしてこんなに丁重に扱われるんだろう。私なんかが……」


侍女に案内されながら宮廷内を歩くうちに、千紗の不安はさらに膨れ上がった。廊下は贅沢な絨毯で敷き詰められ、壁には豪華な装飾が施され、至る所に高価そうな調度品が並んでいる。人々はみな、きらびやかな衣装を身にまとい、完璧な所作で動いていた。


「これが……私のこれからの生活?」


頭がくらくらしそうだった。侍女たちの流れるような案内を聞きながら、千紗はただひたすら周囲に圧倒されるばかりだった。


他の側室との初対面


侍女に案内され、ようやく千紗専用の部屋に到着したころには、彼女はすっかり疲れ切っていた。しかし、休む間もなく、他の側室たちとの初対面が待っていた。


「千紗様、他の側室様方にご挨拶を。」


部屋に通された千紗の前には、すでに集まっていた4人の女性がいた。全員が上品な貴族の出身であることが一目でわかる気品と威厳を漂わせていた。


一人が冷たい視線で千紗を値踏みするように見たかと思うと、侮蔑の混じった笑みを浮かべた。


「まあ、これが陛下が選ばれた新しい側室?平民にしてはまあまあの容姿ね。」


その言葉に、他の女性たちも小さく笑い声を漏らした。


千紗は眉間に皺を寄せながらも、無理やり表情を取り繕った。「笑顔、笑顔。ここで怒ったら思う壺よ……」


「はじめまして。千紗と申します。よろしくお願いいたします。」


ぎこちないながらも一礼する千紗に、最年長らしい側室の女性が口を開いた。


「私たちはそれぞれ、陛下にお仕えする身です。新参者として、身の程をわきまえることをお忘れなく。」


彼女の言葉には遠回しな警告が込められていたが、千紗はそれに対して一歩も引かなかった。


「もちろんです。皆さまのご指導を楽しみにしています。」


千紗は笑顔を崩さないまま、皮肉を込めた答えを返した。その瞬間、最年長の女性が一瞬だけ表情を曇らせたのを千紗は見逃さなかった。


孤立する千紗


初対面の場を何とか切り抜けたものの、千紗はすぐに他の側室たちが自分を敵視していることを感じ取った。


「平民出身の新参者なんて目障りだわ。」

「どうせ陛下の一時の気まぐれでしょう。」


廊下ですれ違うたび、他の側室たちがひそひそと陰口を叩くのが聞こえてくる。それでも千紗は、あえて気にしないふりをした。


「こんなところで反応したら、相手の思う壺よ。」


しかし、彼女が気を抜ける瞬間は一つもなかった。次第に些細な嫌がらせが始まり、食事の席で遠回しに侮辱されたり、必要な書類が部屋からなくなったりするようになった。


千紗の決意


その夜、部屋で一人静かに座る千紗は、大きく息を吐きながら自分に言い聞かせた。


「こんなところで泣き言を言っていても始まらない。私には帰れる家もないし、ここで生き残るしかない。」


彼女はこれまで商家で培ってきた知恵と観察力を活かすことを決意した。側室たちの態度の裏に隠された本音や不安を見抜き、それを武器に状況を切り開いていく覚悟を固めた。


「何でもいいから、ここでの生き方を見つけないと。」


そう呟いた千紗の目は、次第に冷静な光を帯び始めていた。


千紗の宮廷での新生活は、波乱の幕開けとなった。孤立無援の中で、彼女は自分の立場を守り抜くための戦いを始めようとしていた――。



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