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第7話 共通の目標を提案

側室たちのいざこざを何度も目の当たりにし、その都度皮肉や観察眼を活かして仲裁を行ってきた千紗。しかし、それだけでは根本的な解決には至らないと感じていた。毎回の争いは小さな火種のようなもので、鎮火したかに見えても再び燃え上がる兆候がある。千紗は、側室たちが争いの代わりに向かうべき共通の目標を設定することで、この状況を変えられるのではないかと考え始めた。


皇帝の不興を避けるための提案


ある日、側室たちがまた些細なことで言い争いを始めた。イレーネとマーシャが、皇帝が選んだ夜の晩餐の献立について、それぞれ自分が提案した料理が採用されたのだと言い張り、リヴィアもそれに便乗して自分の意見が軽んじられていると主張していた。


千紗はこの不毛な争いを眺めながら、静かに口を開いた。


「皆さま、そのようにお互いを非難し合うのはもうやめにしませんか?」


その一言に、側室たちは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに冷たい視線を千紗に向けた。


「私たちが何をしようと、あなたには関係ないことでしょう?」とマーシャが言い放つ。


「もちろん、私には関係ない話です。ただ、陛下がもしこのやり取りをご覧になったらどう思われるか……少し考えてみただけです。」


千紗の落ち着いた声と柔らかな笑顔には、微かな皮肉が込められていた。陛下の不興を買う可能性に気づいた側室たちは、少しだけ言葉を濁した。


側室たちを巻き込む新しい提案


千紗はさらに続けた。


「皆さまは陛下を尊敬し、そのお心に応えたいと願っていらっしゃるはずです。それならば、お互いを非難するよりも、協力して陛下のために何かを成し遂げるほうが、よほど建設的ではありませんか?」


その言葉に、側室たちは顔を見合わせた。イレーネが眉をひそめながら問いかける。


「協力して成し遂げる?一体何をしようと言うの?」


「たとえば、陛下が喜ばれるような行事を企画してみるのはいかがでしょうか。宮廷の美しい庭園を活かして、陛下にとって特別なひと時を提供するのです。」


千紗の提案に、最初は反発していたマーシャも興味を示し始めた。


「……確かに、それなら陛下も私たちを見直してくださるかもしれないわね。」


リヴィアも少しずつ態度を和らげ、提案に乗る姿勢を見せた。


「そのような行事なら、陛下だけでなく、宮廷全体にも良い影響を与えるかもしれませんね。」


具体的な計画の立案


千紗は側室たちの関心を引きつけたところで、さらに話を進めた。


「では、早速具体的な計画を立ててみましょう。庭園を使うなら、季節を感じられるようなお茶会などはいかがでしょうか。装飾や献立も工夫すれば、陛下に喜んでいただけるはずです。」


「お茶会なら、私が得意な装飾を活かせるかもしれません。」イレーネが少しだけ笑みを浮かべて言った。


「私はお菓子の提案をします!陛下の好みに合う新しいお菓子を考えるのが得意なの!」マーシャもやる気を見せる。


「私は、皆さまの提案をまとめて陛下にお伝えする役割を担いますわ。」リヴィアも協力を申し出た。


千紗はそれを見て、内心でほっと胸をなでおろした。これまでバラバラだった側室たちが、初めて一つの目標に向かって動き出そうとしていたのだ。


初めての成果と側室たちの変化


数週間後、千紗の提案を基にした庭園でのお茶会が実現した。側室たちがそれぞれの得意分野を活かして協力した結果、行事は大成功に終わった。皇帝セイラスも大いに満足し、側室たちに感謝の言葉を述べた。


「そなたたちが協力してこのような行事を企画してくれるとは、世も嬉しい限りだ。これからも仲良く励むが良い。」


皇帝の言葉に、側室たちは一斉に微笑みを浮かべて頭を下げた。その後、談話室で再び集まった側室たちは、以前のような険悪な雰囲気ではなく、和やかな空気を漂わせていた。


「今回は本当に楽しかったわ。次はどんなことを企画しようかしら?」とマーシャが言うと、リヴィアが優しく笑って答えた。


「マーシャ様の提案がとても素敵でしたものね。次もきっと良い案が出ると思います。」


千紗はそれを聞きながら、少し微笑んだ。彼女の提案によって、側室たちの間には確かな変化が生まれていた。もちろん、完全に争いがなくなったわけではないが、少なくともお互いを尊重する気持ちが芽生え始めていた。


「これなら、少しは平穏に暮らせるかもしれない……。」


千紗は心の中でそう呟きながら、次にどんな波乱が訪れるかに備える覚悟を新たにした。宮廷での彼女の挑戦は、まだ始まったばかりだった――。



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