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第8話 一目置かれる存在へ

 庭園での茶会を成功させたことで、千紗は側室たちから一目置かれる存在になりつつあった。以前のように嫌味を言われたり、陰口を叩かれることは減り、逆に千紗の意見を求める場面が増えてきた。それでも、側室たちの間に完全な和解が訪れたわけではなく、争いの火種は依然として残っていた。しかし、少なくとも千紗はその場の空気を調整する役割を担うことで、存在感を確立していた。


再びの争い:マーシャとリヴィア


ある日の午後、談話室でマーシャとリヴィアが再び口論を始めた。きっかけは些細なことだった。先日の茶会で皇帝が褒めた菓子のレシピを誰が提案したのかについての争いだった。


「それは私が最初に考えたアイデアよ!」とマーシャが声を上げる。


「でも、その形にまとめたのは私ですわ!」とリヴィアが負けじと言い返す。


他の側室たちはまた始まった、といった様子で二人から距離を取る中、千紗は静かにお茶を飲みながら二人の様子を観察していた。以前の彼女なら見て見ぬふりをしていただろうが、今や放っておくわけにはいかなかった。


千紗は茶杯をそっと置くと、軽くため息をつきながら口を開いた。


「まあまあ、二人とも落ち着いてください。その菓子を陛下が褒めてくださったのは、二人の協力があったからこそです。どちらか一方だけの手柄ではありませんよね?」


マーシャとリヴィアは互いに視線を交わしながら、少し気まずそうに黙り込んだ。


新しい提案:次の目標を作る


千紗はその場の空気が和らいだのを見て、さらに続けた。


「それに、過去のことを争っていても、前には進めませんよ。それなら、次の茶会や行事でまた素晴らしいものを作り出すことに力を注ぎませんか?」


「次の行事……?」リヴィアが首をかしげながら聞き返す。


「ええ、陛下がさらに喜んでくださるような企画を考えましょう。例えば、来月は新しい季節の始まりですし、季節感を活かした何かを計画するのも良いかもしれません。」


その提案に、他の側室たちも興味を示し始めた。


「それは良いわね。私なら装飾をもっと豪華にできそうだわ。」イレーネが微笑みながら言う。


「私は季節の果物を使った新しいお菓子を考えるわ!」とマーシャも声を弾ませる。


リヴィアもそれに続き、「私は皆さまの提案をまとめる役割を務めさせていただきます。」と前向きな態度を見せた。


千紗は、これが側室たちが次の目標に向けて協力し合う良いきっかけになると感じた。


皇帝からの呼び出し


数日後、千紗は侍女から皇帝セイラスに呼び出されたことを告げられた。急な呼び出しに驚きながらも、彼女は心を落ち着けて皇帝の待つ執務室へ向かった。


扉を開けると、セイラスが机の向こう側で書類を整理しながら微笑んでいた。


「千紗、そなたが最近、側室たちの間でよく働いていると聞いたぞ。」


「……恐れ入ります。」千紗は礼をしながら答えたが、内心では何を言われるのかと少し緊張していた。


「そなたがいなければ、あの者たちの争いはもっと激化していただろう。世としても、そなたの存在には感謝している。」


「恐縮です。ただ、私は側室として皆さまのお力になりたいと考えただけです。」千紗は謙虚な態度で答えた。


セイラスは少しだけ笑いを浮かべながら、興味深そうに彼女を見つめた。


「そなた、ただの商家の娘とは思えぬな。平民出身ながら、その観察眼と知恵は実に面白い。」


千紗はその言葉に困惑しながらも、皮肉を込めて返した。


「陛下の仰る『面白い』が褒め言葉なら良いのですが……。」


その返答に、セイラスは声を上げて笑った。


「面白いだけでなく、有能でもある。これからも期待しているぞ。」


側室たちの間での信頼


千紗が皇帝からの信頼を得たことで、側室たちの間でも彼女への見方が変わり始めていた。これまでは軽んじられていた千紗が、今や問題解決の中心人物となり、他の側室たちも彼女を頼るようになっていた。


「千紗様、この件についてどう思われますか?」とイレーネが尋ねることもあれば、


「千紗様、陛下に提案する前に意見を聞かせてください!」とリヴィアが相談してくることも増えた。


千紗は心の中で苦笑しながらも、状況が好転していることを実感していた。


「面倒事が増える一方だけど、まあ……居場所ができたのは悪くないわね。」


彼女はそう考えながら、これからも波乱が続くだろう宮廷生活に備えていた。


千紗はもはや単なる側室の一人ではなく、宮廷内で一目置かれる存在へと成長していた。争いを調停し、側室たちを協力へと導くその姿は、宮廷内の人々にとって欠かせない存在となりつつあった。しかし、これが新たな試練への序章に過ぎないことを千紗はまだ知らなかった――。



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