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第10話 証拠集め

 千紗は宮廷内で進行している陰謀を暴くために動き出した。噂や断片的な情報を繋ぎ合わせるだけでは不十分だ。彼女に必要なのは、誰もが否定できない確かな証拠だった。


大胆な作戦の開始


「倉庫に武器が運び込まれているのを確認しましたが、それだけでは決定的な証拠にはなりませんね。」

侍女エリカの報告を聞きながら、千紗は考え込んでいた。


「そうね。これがただの備蓄なのか、それとも陰謀の一環なのかを明確にする必要があるわ。」


千紗は小さく息をつき、冷静に指示を出す。

「今夜、倉庫に忍び込むわ。エリカ、あなたには見張りをお願いするわね。」


エリカは驚いた表情を見せた。「千紗様、自ら動かれるのですか?それは危険すぎます!」


「分かってるわ。でも、他に確実な方法はないもの。」千紗は微笑みながら答えた。


その晩、千紗は闇に紛れて倉庫へと向かった。エリカともう一人の侍女ミナが見張り役を務め、彼女が安全に動けるよう協力していた。


倉庫での発見


倉庫の扉は簡単には開かなかったが、ミナが事前に用意していたピンを使って鍵を開けることに成功した。千紗は物音を立てないよう慎重に中へと足を踏み入れる。


中は薄暗く、天井から吊り下げられた小さなランタンがぼんやりと光を放っているだけだった。しかし、その薄明かりの中でも、千紗は大量の木箱が積み上げられているのを確認できた。


「これが運び込まれていたという物資ね……。」千紗は低く呟きながら、箱の一つに近づいた。


箱のふたを静かに開けると、中には磨かれた武器がぎっしりと詰まっていた。剣や盾、弓矢、さらには見慣れない装置まである。


「ただの備蓄ではないわね。こんなに多くの武器を一箇所に集めるなんて……。」


さらに奥に進むと、別の箱からは文書が見つかった。それは地図であり、宮廷内の配置図が詳細に描かれていた。いくつかの部屋には赤い印がつけられており、その中には皇帝セイラスの執務室も含まれていた。


「これは……暗殺計画?」千紗の声が震えた。


その地図の下からは手紙の束も見つかった。その内容は具体的な計画を示唆するものではなかったが、重臣たちの間で何らかの秘密の取引が行われていることを暗示していた。


「これだけの情報があれば、陛下に報告するには十分ね……。」


千紗が文書を整理しようとしたその時、扉の外から人の気配がした。


危機一髪の脱出


「誰かが来る!」エリカの小声が扉の向こうから響いた。


千紗は慌てて文書を懐にしまい、倉庫内の物陰に身を潜めた。扉が静かに開き、カール侯爵と数人の取り巻きが中に入ってくる。


「計画は順調に進んでいるな。」カール侯爵の声が冷たく響く。「これだけの武器が揃えば、動き出す準備は整う。」


取り巻きの一人が答える。「はい。あとは指示を待つだけです。」


千紗は息を潜め、二人の会話を聞き続けた。その内容は、反逆計画が着実に進行していることを裏付けるものだった。彼らが持ち出した文書の一部には、宮廷内の協力者の名前が記されていた。


「これ以上ここにいるのは危険だわ……。」千紗はタイミングを見計らいながら、少しずつ物陰を移動した。


幸い、カール侯爵たちは文書や武器の確認に集中しており、千紗の存在には気づかなかった。彼女は倉庫の隅にある窓から外に抜け出し、息を切らしながらエリカとミナが待つ場所へと戻った。


初めての確信


「千紗様、大丈夫ですか!?」エリカが心配そうに駆け寄る。


「ええ、なんとかね。でも、これは思っていた以上に深刻な事態よ。」千紗は懐から地図と文書を取り出し、二人に見せた。


「宮廷内の配置図……それに、皇帝陛下の部屋が狙われている。」ミナが目を見開いて驚く。


「ええ、計画がかなり具体的に進んでいるわ。このまま放置すれば、陛下が危険に晒される。」


千紗は地図を慎重に折り畳み、次の行動を決めた。


「この証拠を陛下に報告するわ。でも、その前にもう少し計画の全貌を掴む必要がある。彼らが動き出すタイミングを把握しなければ。」


エリカとミナは互いに頷き、彼女の指示に従う意志を示した。


次なる一歩


自室に戻った千紗は、見つけた証拠を整理しながら、自分の心を落ち着けようとしていた。倉庫での緊張感がまだ体に残っているが、彼女の決意はさらに強固なものとなっていた。


「ここで止まるわけにはいかない。この陰謀を暴いて、陛下を守る。」


その夜、千紗は深い息をつきながら窓の外を見つめ、次なる計画を練り始めた。彼女が立ち向かうべき相手は、想像以上に手強い。だが、千紗の中に芽生えた使命感は揺らぐことがなかった。


「私はやるべきことをやるだけ。それが、今の私に与えられた役割だもの。」


宮廷の闇に挑む千紗の戦いは、さらに激しさを増していく――。



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