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第12話 補佐官への任命

 陰謀を暴き、反逆計画を未然に防いだ千紗の働きは、宮廷内で大きな波紋を呼んだ。皇帝セイラスを失脚させようとする陰謀の詳細を掴み、迅速に動いた結果、反逆者たちは次々と拘束され、その計画は完全に潰えた。しかし、事件が終わったにもかかわらず、千紗の心は晴れなかった。彼女は自室に戻ると、大きく息を吐き出した。



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千紗の思い


「これでようやく平穏な日々が戻る……わけじゃないのよね。」

千紗は窓辺に腰掛け、冷たい夜風に当たりながら呟いた。


反逆計画を阻止した功績が広まれば、彼女の立場がますます注目を浴びるのは目に見えていた。側室としての役割を静かにこなしていくどころか、今や宮廷の中核にいる存在となりつつあった。


「私はただ、普通に生きていたかっただけなのに。」

心の中でぼやきながらも、千紗は自分がこれ以上逃げられない立場にいることを自覚していた。



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皇帝との再会


翌日、千紗はセイラスに呼び出された。執務室に入ると、セイラスはいつも通りの落ち着いた表情で彼女を迎えた。机には千紗が提供した証拠の書類が広げられており、その一つ一つに目を通している様子だった。


「千紗、よく来た。」セイラスは視線を上げ、彼女を見つめる。


「お呼び立ていただき光栄です、陛下。」千紗は形式的な言葉で応じたが、内心では何を言われるのか緊張していた。


「まずは礼を言おう。そなたの迅速な働きがなければ、我々は反逆者たちの計画を未然に防ぐことはできなかった。」


セイラスの言葉には真摯な感謝の意が込められていたが、千紗はどこか不安を覚えた。彼がこれほど素直に感謝を示す時は、必ずと言っていいほど後に厄介な話が続くのだ。



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補佐官への任命


セイラスは深く頷くと、立ち上がり、千紗に向かって一歩近づいた。


「今回の事件で世は改めて確信した。そなたはこの宮廷に必要な人物だ。そこで、そなたには新たな役割を与えたい。」


千紗の心に冷や汗が流れる。「嫌な予感しかしない……。」


「世の補佐官として、これからもそばでこの帝国を支えてほしい。」セイラスのその一言に、千紗は思わず言葉を失った。


「……は?」


彼女の反応に、セイラスは少し笑みを浮かべた。「驚くのも無理はない。しかし、そなたほどの知恵と判断力を持つ者は他にいない。」


千紗は慌てて抗議の言葉を口にした。「陛下、それは過大評価です!私はただの商家の娘で、宮廷のことなど何も――」


セイラスは手を挙げて彼女の言葉を遮った。「謙遜するな。そなたの行動が何よりの証拠だ。そなたがいなければ、この宮廷はどうなっていたか分からない。」


「でも、私には宰相でもないのに補佐官なんて――」千紗は続けようとしたが、セイラスの鋭い眼差しに言葉を飲み込んだ。


「そなたにはその役割を果たす力がある。そして世はそれを見抜いている。」


千紗は内心で頭を抱えた。「やっぱり断れないんだ……。」



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新たな役割の始まり


「分かりました。補佐官として全力を尽くします。」千紗は観念したように答えたが、その声にはどこか諦めの色が混じっていた。


セイラスは満足げに頷き、「世はそなたを信じている」とだけ言葉を残した。


千紗が執務室を後にすると、廊下で待っていたエリカが駆け寄ってきた。


「千紗様、どうでしたか?」


千紗は苦笑いを浮かべた。「補佐官に任命されたわ。」


エリカは目を見開いた。「補佐官!?それはすごい栄誉です!」


「栄誉……というより、厄介ごとが増えるだけよ。」千紗は小さくため息をついた。



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新たな道へ


その夜、千紗は自室の窓辺に座り、外の星空を見上げていた。宮廷の闇と光、力と陰謀が交錯する中で、自分の道が大きく変わってしまったことを改めて感じていた。


「平穏な日常なんて、もう二度と戻ってこないんだろうな。」


そう思いながらも、胸の奥には小さな覚悟が芽生えていた。


「それでも、やるべきことをやるだけよ。」


新たな役割を与えられた千紗の物語は、これからさらに波乱に満ちた展開を迎える――。



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